特 集 生活習慣病から急性疾患までの血管内皮細胞障害
◆序文:生活習慣病のような慢性病から集中治療領域の急性に至る疾患の病態形成における血管内皮細胞機能障害の重要な役割を,本特集では,基礎および臨床研究的立場からクローズアップする。
(服部裕一 p.77)
◆糖尿病性細小血管障害の治療戦略
糖尿病性細小血管障害は十分には解明されていない。細小血管では内皮由来過分極因子(EDHF)が重要であり、細小血管障害にEDHFシグナリングの障害が深く関与していることを考えると、このメカニズムを解明することは重要である。本稿では、EDHF障害メカニズムの一端としてcAMPシグナリングの異常が関与していることを示し、血管におけるcAMPシグナリングの制御が細小血管障害の治療戦略となる可能性を論じる.
(松本貴之 p.78)
◆血管内皮機能とインスリン抵抗性
血管内皮機能障害とインスリン抵抗性との間の密接な関係は、肥満・メタボリックシンドローム・2型糖尿病の病態モデルや実際の患者で広く知られている。インスリン抵抗性が血管内皮機能障害を惹起する機序については多くの因子が関与するが、本編では特にインスリン抵抗性発症における血管内皮の役割に着目した.
(窪田哲也 p.85)
◆動脈硬化発症病態としての生活習慣病
生活習慣病は「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義されている。特に、糖尿病、肥満、高脂血症、高血圧、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患への対策が重要な課題である。現代の生活習慣からこれらの病気を発症する共通の病態基盤を知ることは、将来の包括的治療につながると期待されている.(山田信博 p.89)
◆虚血・再灌流後の微小循環障害における血管内皮機能調節
虚血・再灌流後の循環障害には白血球-血小板凝集塊とともに活性化白血球による血管内皮障害が関与している。アスピリンでは前者を抑制することは可能であるが、後者を抑制することはできず、十分な臓器保護効果は得られない。これに対し、両者を抑制することが可能であるシロスタゾールやジピリダモールの前投与は、虚血再灌流後の臓器障害緩和を図るためのプレコンディショニングとして有用である.(射場敏明 p.92)
◆敗血症性ショックにおける血管内皮細胞の機能異常
敗血症がショックや多臓器不全を引き起こす病態メカニズムの一つとして,血管内皮細胞障害が考えられ,それには血管内皮細胞のアポトーシスが重要な役割を果たしていることを概説する。血管内皮細胞アポトーシスの防止を目的とした治療は,今後その将来性が大きく期待される.(松田直之p.96)
総 説
◆抗体医薬の現状と展望
時まさに抗体医薬の時代であり,10年前には薬理学教科書の片隅にもなかった抗体医薬が今現在新薬承認申請では主役の座にある.そこでこのような時代を迎えた背景,代表的抗体医薬および近い将来の抗体医薬予測,さらには抗体医薬開発の今後の課題,および課題解決において薬理学の果たすべき役割について概説する.(川西 徹p.102)
総 説
◆ITB (髄腔内バクロフェン) 療法
中枢性疾患による重度の痙縮に対する治療法は今まで効果が不十分であった。そこで髄腔内バクロフェン(ITB)療法が開発され、2005年本邦でも認可された。バクロフェンは主に脊髄に作用しGABAB受容体を介して抗痙縮作用や鎮痛作用を示す。痙縮とは関連のない慢性疼痛に対するITB療法の有効性の報告もあり、今後は適応症の拡大、オピオイドや鎮痛補助薬を併用した髄注療法の開発など様々な可能性が期待される.(安藤優子p.109)
治療薬シリーズ(23)喘息治療薬
◆喘息治療薬の研究開発
喘息の治療は,吸入ステロイド薬を用いた抗炎症療法の普及により大幅に改善した.その一方で,より安全で効果的な治療薬の創製に向けた研究開発が続けられており,いくつかの新規メカニズムを持つ治療薬に臨床効果が認められている.本稿では,喘息の臨床症状,病態および治療の現状について概略を述べ,喘息治療薬の新規標的分子について解説する.(戸塚隆一 p.115)
◆喘息の薬物治療の現状および問題点
喘息治療の主体は慢性期の薬物治療である。その治療も年々進歩し、変化を遂げている。また、患者の重症度と個々の状況に合わせた、包括的な治療が求められている。医療スタッフが喘息薬物治療の現状と問題点につき理解し、患者個々の状況と情報を把握/共有することは、今後さらに重要となろう.(松倉聡 p.120)
新薬紹介総説
◆新規シクロオキシゲナーゼ-2選択的阻害薬セレコキシブ
セレコキシブはCOX-2を選択的に阻害する薬剤であり,既存のNSAIDs並の鎮痛作用を有しつつ,消化管障害等の副作用を軽減するというコンセプトが前臨床・臨床試験で立証された世界初のCOX-2選択的阻害薬である.(木本愛之 p.127)
◆遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン
2005年より体外受精などの生殖補助医療の領域で,複数卵胞発育のための調節卵巣刺激に使用可能となっていた遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン製剤である「フォリスチム注」が,
2007年3月に排卵誘発の適応で保険薬価収載となった。本稿ではフォリスチム注の薬理学的特性と臨床成績について紹介する.(小川 晃 p.139)
◆静注用胃酸分泌抑制薬ランソプラゾール
上部消化管出血の薬物治療においては,胃酸分泌を強く抑制して胃内pHを上昇させ,血液凝固能および血小板凝集能を改善し,ペプシンによる血液凝固塊の溶解を抑制することが肝要である.プロトンポンプ阻害薬であるランソプラゾールはあらゆる刺激酸分泌を抑制し,上記胃内環境を作り出す点で優れた特性を有している.本剤の薬理作用および臨床試験成績について概説する.
(稲富信博 p.149)
|