特 集 未病治療へ向けての薬理学的展開
◆「未病を治す」という概念と合致する生体防御機構に対する薬効と機序を解明し、予防医学的新規コンセプトとして提唱し、リスクを予見するマーカーとして応用することで、医療の中に本概念を根づかせることが必要である。(只野 武 「未病治療へ向けての薬理学的展開」序文
p.239)
◆天然薬物の免疫調節作用
NC/Nga マウス皮膚にダニ抗原を反復曝露すると Th2 優位な背景を有する皮膚炎が誘発される。アトピー性皮膚炎に有効性を示す漢方方剤の十全大補湯、補中益気湯、消風酸および黄連解毒湯の投与は、皮膚炎を抑制するとともに、Th2
に偏倚した Th1/Th2 バランスを矯正する傾向を示す. (稲垣直樹 天然薬物の免疫調節作用 p.240)
◆食品成分による脳機能調節作用
人々が健康であり続けたいと願っていることは近年の健康食品ブームを見れば明らかである。そのブームは一方で、食品の効能について充分な科学的検証の必要性を認識させた。我々は食品の中でも特に発芽玄米について脳機能に及ぼす作用についてマウスを用いて行動薬理学的に検討してきた。ここではその一部について紹介したい.(間宮隆吉 食品成分による脳機能調節作用の可能性 p.244)
◆ビオチンによる高血圧上昇抑制効果
本態性高血圧症を呈するSHRSPにおいてビオチン長期摂取により血圧上昇抑制効果が確認され、またそれによる動脈硬化の軽減が実際に観察された。ビオチンの単回投与による血圧降下作用の検討によって、この作用はNOを介さない経路での可溶型グアニル酸シクラーゼ活性化を介したcGMP量増加の機構(Gキナーゼ介在による細胞内Ca2+濃度の低下)による可能性が示唆された。
(駒井三千夫 ビオチンの薬理量摂取による高血圧上昇抑制効果の解析 p.248)
◆サプリメントの臨床医学への応用
近年、サプリメントの利用者が急増している。今後、氾濫するサプリメントの情報の中で、科学的に的確なものを見極め、総合的な医療としてサプリメントなども利用した健康管理も必要となってこよう。本稿では、まず補完代替医療(CAM)を概説し、わが国における食品の分類、サプリメントの安全性や米国で進む植物性医薬品(Botanical
Drug)の研究・開発について解説する. (鈴木信孝 サプリメントの臨床医学への応用 p.252)
総 説
◆各種脂肪酸の生理・薬理機能
各種脂肪酸の生理・薬理機能についての情報が急速に増え、疾病との関わりについての理解が深まり、その結果、従来の疾患予防、健康増進のための脂質栄養指針の誤りが明らかとなってきた。本総説は、各種脂肪酸と脳機能、メタボリックシンドローム・糖尿病、癌、動脈硬化性疾患、などに及ぼす脂肪酸の多様な影響について最新のデータを紹介しながら、心身の健康増進に寄与しうる脂肪酸のバランスについて解説している.
(奥山治美 各種脂肪酸の生理・薬理機能の多様性 p.259)
実験技術
◆ヒト血管内皮機能測定法
ヒトでの内皮機能測定はアセチルコリンを前腕から動注し、前腕血流量の変化を測定することによって評価可能である。この方法でさまざまな動脈硬化の危険因子を有する患者における初期の血管機能異常、またさまざまな薬剤による内皮機能改善と心血管イベントの関連などが研究されるようになった.
(植田真一郎 ヒト血管内皮機能測定法 p.269)
治療薬シリーズ(25)パーキンソン病治療薬
◆開発の最前線
パーキンソン病治療薬の主流はレボドパやドパミン作動薬を中心としたドパミン受容体の活性化をもたらす薬剤であるが、近年ドパミン受容体以外の受容体を標的とした化合物がいくつか創薬され臨床開発に入っている。また神経変性疾患であるパーキンソン病の根本治療のため、神経保護作用について様々な創薬標的が提案されている。本稿では、これらの新しい創薬標的を含め、パーキンソン病治療薬の研究開発の現状を紹介する.(神田知之 パーキンソン病治療薬開発の最前線 p.275)
◆問題点と今後望まれる薬剤
パーキンソン病の治療薬は多数開発され、運動症状はこの20年間で格段に改善しているが、長期治療に伴うwearing-off現象や不随意運動、さらに精神症状や認知障害の合併などが問題となっている。ドパミン欠乏による疾患であるため、その前駆物質であるレボドパをしのぐ薬剤はないが半減期が短いのが最大の欠点である。今後、神経細胞の変性を抑制する神経保護薬の登場が期待される.
(村田美穂 パーキンソン病治療薬の問題点と今後望まれる薬剤 p.281)
創薬シリーズ(3)その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験③
◆皮膚毒性
皮膚は体の中の最大の器官であり,常に化学物質や環境物質など外界からの刺激に暴露される。本総説では皮膚の機能・構造および医薬品・化学物質による皮膚毒性の特徴について概説した.
(義澤克彦 皮膚毒性 p.285)
新薬紹介総説
◆持続型赤血球造血刺激因子製剤(ネスプR)
貧血は透析患者の重大な合併症の一つである。ネスプRは、遺伝子組換えヒトエリスロポエチン(rHuEPO)にアスパラギン結合型糖鎖を2本付加した誘導体であり、血中消失半減期が約3倍に延長されている。その結果、従来のrHuEPO製剤の投与頻度の減少を可能とし、透析患者の貧血および生活の質の改善に加えて、透析医療における様々なメリットが期待されている.
(永野伸郎 透析施行中の腎性貧血に対する持続型赤血球造血刺激因子製剤(ダルベポエチン アルファ:ネスプR)の薬理作用ならびに臨床試験成績 p.291)
◆腸管洗浄剤ビジクリア(ビジクリアR錠)
ビジクリアは、リン酸二水素ナトリウム一水和物および無水リン酸水素二ナトリウムを有効成分とする錠剤型の経口腸管洗浄剤である。本剤は、米国で180万人以上の使用実績のあるVisicol錠を日本人に適した大きさ、用法・用量に開発した製剤であり、患者の受容性の向上を目的として開発された。本剤は既存の洗浄剤と同等の洗浄効果を有すと共に、高い患者受容性を示すことが臨床試験により示された.
(篠崎 豊 新規腸管洗浄剤ビジクリア(ビジクリアR錠) p.301)
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