特 集 慢性咳嗽を理解するための基礎と臨床
◆近年、長引く咳嗽(慢性咳嗽)を訴える患者が増加している。これら慢性咳嗽の治療における問題点を臨床の立場からその病態を含めて解説し、基礎からは慢性咳嗽の発症機序およびその治療薬の展望について解説する。(亀井淳三「慢性咳嗽を理解するための基礎と臨床」序文 p.401)
◆アトピー咳嗽と咳喘息の病態と治療
長引く頑固な咳には原因がある。日本では、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群が3大原因疾患である。それぞれの疾患には有効な治療法があるので、原因疾患の診断が重要である。しかしながら、咳嗽の原因疾患を病態的に診断するために必要な病態の解明は進んでいないため、治療的に診断せざるを得ないのが現状である.(藤村政樹 p.402)
◆かぜ症候群後咳嗽と胃食道逆流による咳嗽の病態と治療
咳嗽は持続期間により分類され、3週間以上8週間未満の咳嗽を遷延性咳嗽、8週間以上続く咳嗽を慢性咳嗽と呼んでいる。本邦における遷延性・慢性乾性咳嗽の4大原因疾患は、咳喘息、アトピー咳嗽、かぜ症候群後咳嗽(感染後咳嗽)、胃食道逆流による咳嗽である。かぜ症候群後咳嗽は、ウイルスや肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジア、百日咳感染後に咳嗽が遷延する病態である。胃食道逆流による咳嗽は、胃食道逆流と遷延性・慢性咳嗽があり、empirical therapyとしてのプロトンポンプ阻害薬などで咳嗽が改善する場合に診断される.(藤森勝也 p.406)
◆喉頭アレルギーと咳嗽
近年、肺に明確な原因が特定できない持続性咳嗽患者が増加しており、その原因疾患の1つに喉頭アレルギーが上げられる。鑑別疾患は、アトピー咳嗽、咳喘息、後鼻漏症候群、胃食道逆流症、かぜ症候群後遷延性咳嗽、薬剤誘発性咳嗽などが上げられる。これらを診断治療する上で、注意すべきことは、見逃すと大きな問題となる重篤な気道疾患(肺門部癌、気管支結核、喉頭癌、上顎癌など)の除外である.(内藤健晴
p.412)
◆TRP
チャネルと咳嗽
唐辛子の辛味成分であるカプサイシンを吸入すると気道C線維末端が興奮し、神経ペプチドであるサブスタンスPやニューロキニンA、Bなどが遊離され、咳嗽が誘発されることが知られている。近年、このカプサイシン受容体はTRPV1と呼ばれる陽イオンチャネルから構成されていることが明らかになった。TRPV1は咳嗽反射のみならず神経原性炎症にも深く関与しており、TRPV1拮抗薬は新しい咳嗽治療薬となる可能性がある.(塩谷隆信p.417)
◆下気道神経系は慢性咳嗽抑制薬の標的になり得るか
新規の慢性咳嗽抑制薬の開発が求められている。これまでに臨床で慢性咳嗽に対して一定の効果をもつとされる薬物の、慢性咳嗽動物モデルに対する作用とこれらの薬物の下気道神経系に対する作用の電気生理学的解析結果に基づいて、カプサイシン受容体であるTRPV1受容体を発現しているC線維と侵害受容性Aδ線維、およびC線維の入力を受ける傍気管神経節ニューロンがその標的になり得る可能性について論究する.(高濱和夫 p.423)
◆咳嗽感受性亢進機序から見た末梢性鎮咳作用機序
長引く咳嗽を訴えて受診する患者、いわゆる遷延性咳嗽あるいは慢性咳嗽患者が増加している。その原因疾患は様々であるが、咳受容体感受性の亢進する病態と、咳受容体感受性は正常だが、咳嗽が持続する病態に大別される。しかし、これらの咳嗽の発症機序の詳細は明らかでなく、臨床の立場からは慢性咳嗽の治療における問題点をその病態を含めて解説し、基礎からは慢性咳嗽の発症機序および慢性咳嗽の治療に有効であろうと思わる薬物を解説する。
(亀井淳三 p.429)
総説
◆新薬開発におけるバイオマーカー活用の現状
バイオマーカーは,新薬開発に技術革新をもたらす産官学が連携した戦略的な取り組みである.たとえば画像診断を臨床評価に活用するために,動物用のイメージング装置で新薬の薬効評価方法を検討する.ゲノム科学の進歩を臨床開発に応用するのもバイオマーカー戦略である.バイオマーカーの実用化のために薬理研究が果たす役割に期待する.(山口行治 p.435)
実験技術
◆低酸素と心血管疾患の関連性の評価法
睡眠時無呼吸症候群は、心血管疾患の危険因子となることが報告されている。本稿では、低酸素が心血管系に与える影響を調べるため、2種類の低酸素曝露装置を紹介し、それらの装置を用いた実験結果について解説する.(林 哲也 p.441)
治療薬シリーズ(26)抗不整脈薬
◆抗不整脈薬の電気薬理学的基盤と心室性不整脈の治療
不整脈薬物療法に対する考え方が大きく変化した。抗不整脈薬の分類も古典的なVaughan Williamsの分類からSicilian Gambitに移行しつつある。不整脈の病因も遺伝子レベルで理解されると共にそれに応じた薬物が選択され、重症心室性不整脈の治療はIII群抗不整脈薬が主体となっている。抗不整脈薬の分類、不整脈の発生機構と心室性不整脈の薬物療法について概説した.(中谷晴昭 p.446)
◆抗不整脈薬の基礎と今後の展開―基礎
高齢者ほど罹患しやすく脳梗塞に繋がる疾患として注目されている心房細動にフォーカスし薬物治療法について概説した.既存薬では,治療に用いる薬剤そのものの副作用や,心室に影響することなどが問題となっており満足度は低い.ここでは,最新の薬剤開発状況を概説し,既存薬の副作用回避に注力したマルチチャネル遮断薬,作用機序上心室への影響回避を目指したIKur+Ito遮断薬,機械的刺激によって機能するチャネルに注目したSAC遮断薬などを紹介した.(橋本吉弘 p.452)
◆臨床家から見た日本での不整脈治療はどうあるべきか?
これまでの不整脈診断、治療の長い歴史を冷静に振り返ってみると、そこには今後目指すべき不整脈治療の姿が見えてくる。現在、心臓電気生理学に関する基礎的情報は集積する一方で、本邦においても大規模臨床試験を実施できる環境が整ってきた。いま、我々は不整脈治療の考え方が変革する過渡期にある。(山下武志 p.457)
創薬シリーズ(3)その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験⑤
◆神経毒性試験
農薬などの化学物質の安全性評価の分野では、脳神経系の機能、形態、発達への影響を体系的に評価するガイドラインが整備されている。本稿では、神経毒性に関連するガイドラインを紹介し、世界的な標準であるOECDガイドラインに基づいて成獣期ならびに発達期の哺乳動物を対象にした神経毒性試験を解説した.
(高橋宏明 p.462)
新薬紹介総説
◆勃起不全治療薬 タダラフィル(シアリスR錠 5, 10,
20 mg)
タダラフィルは選択的なホスホジエステラーゼ・タイプ5(PDE5)阻害薬であり、食事の影響を受けず、かつ効果の継続時間が長い特性を有しており、より自然な状況下で勃起不全の治療が可能となる薬剤である。本薬の薬理学的、薬物動態学的特性と国内外の臨床試験成績を紹介する.
(山口高史 p.469)
|