特 集 ケミカルバイオロジー入門
◆「ケミカルバイオロジー入門」
ケミカルバイオロジーは、化学と生命科学の融合した新しい学問領域で、世界中で急速に発展しつつある。はたしてケミカルバイオロジーと薬理学は何が異なっているのであろうか?また、薬理学者がケミカルバイオロジーの概念や手法を取り入れるには、どのようにすれが良いのであろうか?(田中利男 「序文」p.3;
萩原正敏「ケミカルバイオロジー概論」 p.4)
◆分子イメージングとケミカルバイオロジー
化学に基づいて生命を垣間見ようとする分子イメージング研究はケミカルバイオロジーを担う柱の一つであり,万人の関心事であるヒトの生命・健康に直結するため,現在研究が活発である.本稿では分子イメージングに用いる筆者らが開発した蛍光プローブに関し,蛍光制御原理を簡単に紹介し,それらに基づいたプローブの分子設計法と合成,およびそれらを生細胞などに応用した実例を紹介したい.
(小島宏建 分子プローブによる細胞イメージング p.7)
◆標的
- 核内受容体
核内受容体を分子標的とした医薬化学研究は、小分子による特異的遺伝子の発現制御を可能にし、医薬候補化合物や新たな治療法の提供をもたらしている。生命科学の基礎研究での有用性だけでなく、臨床応用が実現した合成レチノイドを例に、創薬を志向したケミカルバイオロジー研究について紹介する.(影近弘之
核内受容体を標的とするケミカルバイオロジー研究 p.11)
◆標的
- HDAC
微生物由来の分化誘導物質の探索から初のHDAC阻害薬の発見につながった。 HDAC阻害薬はクロマチン機能の重要性と新たな抗がん薬開発の概念の確立をもたらした。これはケミカルバイオロジーによる成功の典型例となった.(吉田 稔 HDACを標的とするケミカルバイオロジー p.18)
◆標的-
リン酸化酵素
タンパク質リン酸化反応は多様な生体機能を調節するタンパク修飾反応で、それを触媒するタンパク質リン酸化酵素は創薬標的として注目されている。しかしながら、タンパク質リン酸化酵素阻害薬の研究が日本を起点に展開されてきた事実は忘れ去られつつある。
ケミカルバイオロジーの観点から、タンパク質リン酸化酵素阻害薬に関する研究の過去、現在、未来を俯瞰する.
(萩原正敏 リン酸化酵素阻害薬によるケミカルバイオロジー研究の展開 p.22)
◆微生物由来天然化合物とケミカルバイオロジー
微生物はユニークな生理活性と多様性に富んだ構造を有する小分子化合物を生産することから、微生物の生産する天然化合物はケミカルバイオロジー研究を展開する上で非常に強力な武器となる。また、そのような化合物は疾患治療薬のリード化合物となることが期待でき、ゲノム創薬としての展開も十分可能である。本稿では微生物由来天然化合物を用いたケミカルバイオロジー研究とゲノム創薬への展開を概説する.
(井本正哉 微生物由来天然化合物の探索とケミカルバイオロジー p.26)
総説
◆ファーマコゲノミクスの普及と課題
遺伝子検査の標準化を目指している「JMCoEプログラム」の活動の一環として開催された「第1回JMCoEネットワーク学術フォーラム」において、シンポジウム:「ファーマコゲノミクス(PGx)の普及における課題」を実施した。オンコロジー分野(抗がん薬)に的を絞り、PGxにおける日本の現状や今後の課題について基礎研究と臨床医という異なる観点から発表いただき、その後討議をおこなった。本稿はそのシンポジウムの内容をまとめたものである.(鶴尾 隆 ファーマコゲノミクス(PGx)の普及における課題 p.31)
創薬シリーズ(3)その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験⑥
◆血管毒性
血管毒性が原因で医薬品が発売中止された事例は稀である一方で、動物の血管障害がヒトへ外挿できるか不明であったり、あるいは血管障害の有効なバイオマーカーがないために、動物試験で血管毒性がみられた薬物の臨床開発を断念せざるを得ない場合が多い。このジレンマを解決するために、薬物起因性の血管障害探索法やバイオマーカーの研究が強く望まれている。本稿では、血管の組織と機能、血管の病理、薬物による血管毒性に関する概説に加え、血管毒性の探索法やバイオマーカーの研究を紹介する.
(永江祐輔 血管毒性 p.39)
新薬紹介総説
◆抗てんかん薬 トピラマート(トピナR錠)
トピラマートはトピナ?錠として2007年7月に承認を取得した新規抗てんかん薬である.本新薬紹介総説では、トピラマートの各種動物モデルにおける抗けいれん作用,作用メカニズムおよび本邦で実施された第Ⅲ相比較試験の成績について紹介する.(小林
実 新規抗てんかん薬トピラマート(トピナR錠)の薬理作用と臨床成績 p.45)
◆尖圭コンジローマ治療薬 イミキモド・クリーム剤(ベセルナクリーム)
イミキモド・クリーム剤(販売名:ベセルナクリーム5%)は,本邦初の尖圭コンジローマ治療薬である.イミキモドは,TLR7に作用してIFN-αをはじめとするサイトカイン産生を促進し,ウイルス増殖抑制作用および細胞性免疫応答の賦活化を示す.イミキモド・クリーム剤は,従来の外科的療法と比較して侵襲が少ないなど優れた特徴を有する治療薬として期待される.本稿ではイミキモドの薬理作用と臨床効果を紹介する.
(津田敏彦 イミキモド・クリーム剤(販売名:ベセルナクリーム5%)の薬理作用と臨床効果 p.55)
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