特集
血管病治療のブレイクスルー
◆近年の血管収縮異常の理解と、これに基づく薬物療法の発達にはめざましいものがある。質量分析、組替体タンパク質作成、放射光散乱など新しいアプローチの紹介と共に、血管病変に対するDDS利用についても解説する。
(小濱一弘 「血管病治療のブレークスルーを目指す最近の研究」序文 p.123) ◆血管異常収縮の分子機構と分子標的治療薬探索
血管攣縮などの血管異常収縮は、Rhoキナーゼ(ROK)を介するCa2+-sensitizationによって引き起こされる。ROKの上流因子として知られているGPCRやRhoAは生理的刺激でも活性化されるため、これら既知の因子を介さずにROKを特異的に活性化できる病的経路として発見された、スフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)/Fynチロシンキナーゼ/ROK系とその分子標的治療薬について解説する.
(川道穂津美 血管異常収縮の分子機構と分子標的治療薬の探索p.124)
◆収縮フィラメント構造解析からの血管異常収縮へのアプローチ
平滑筋収縮タンパク質フィラメント構造にみられるリモデリングが、血管攣縮等の平滑筋異常収縮制御に応用可能か、平滑筋細胞における収縮フィラメント動態の定量的な解析を種々の実験手法を用いて開始したので、その概要を解説する.
(渡辺 賢 血管異常収縮の新しい治療戦略:平滑筋収縮タンパク質フィラメント構造と機能からのアプローチp.130)
◆高血圧症・肺高血圧症におけるRho・Rhoキナーゼ系の役割
各高血圧ラットモデルにおけるRhoキナーゼ活性化は、RhoAの活性化によると考えられ、Rho/Rhoキナーゼ系は高血圧症の重要なシグナル分子である。肺高血圧症においてRhoキナーゼ阻害薬は血行動態を有意に改善し、Rhoキナーゼ活性化はその病態に深く関与することが示唆される。以上より、Rho/Rhoキナーゼ系は今後、高血圧、肺高血圧症に対する新たな治療戦略となることが期待される.
(谷口正弥 高血圧症・肺高血圧症におけるRho・Rhoキナーゼ系の役割p.134)
◆ナノDDSを基盤とする低侵襲治療的血管新生療法の創製
冠動脈疾患や末梢動脈疾患といった虚血性疾患においては、組織灌流を回復させることが治療目標となるが、遺伝子やタンパク質を用いた従来の治療法では有効性が不十分であることが指摘されている。現行の血管新生療法に優る安全性・有効性を目指して、我々は生体吸収性ナノ粒子を用いた新たなドラッグデリバリーシステム(DDS)に注目した。ナノテクノロジーに基づいたDDSの応用は、重篤な臓器虚血の患者にとって、ナノ医療として画期的新薬の開発に多大な効果をもつものと期待される.
(久保満樹 血管内皮細胞選択的ナノDDSを基盤とするスタチン送達による低侵襲治療的血管新生療法の創製 p.139)
◆ミオシン軽鎖キナーゼの非キナーゼ活性と平滑筋収縮
血管病を理解する上では血管平滑筋の収縮メカニズムの理解が必須である。血管平滑筋の収縮はリン酸化仮説では説明つかない多くの問題を孕んでいる。リコンビナントタンパク質をツールとした新たな収縮メカニズムの解明が一つのブレークスルーとなろうとしている。ここではリン酸化を介さない平滑筋収縮メカニズムに焦点を当てる.
(中村彰男 平滑筋収縮を制御するミオシン軽鎖キナーゼの非キナーゼ活性 p.144)
総説
◆創薬探索における薬剤学的研究の意義と実践
新薬の物性測定,結晶スクリーニング,製剤技術の応用といった薬剤学的検討は,吸収性・薬物動態・製造性・安定性に大きな影響を与える.創薬研究を効率よく行うには,これらの創薬研究への応用についての正しい戦術策定が重要である.そのためには人材育成も含め、マネージメントも大きな役割を果たす.探索段階における薬剤学的研究の意義とその実践例を紹介する.
(真野高司 創薬の探索段階における薬剤学的研究の意義と実践p.149)
創薬シリーズ(3)その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験⑫
◆腎毒性の評価法
腎臓は、肝臓とならび薬物の毒性学的標的となりやすく、医薬品開発の場においても腎障害を惹起する化合物は比較的多い。腎毒性の検出には、非侵襲的な尿検査が鋭敏かつ有用な手段とされている。本総説では、尿検査を中心として、ラットを用いた一般毒性試験の検査項目で対応できる腎毒性の評価法について、障害部位の同定も含めて概説する。さらに新しい腎毒性検出のためのバイオマーカーについても触れる.
(山田久陽 腎毒性の評価法 p.154)
新薬紹介総説
◆長時間作用性局所麻酔薬 塩酸レボブピバカイン(注射剤ポプスカインR)
レボブピバカインは、ブピバカイン(ラセミ体)のS(-)異性体であり、ブピバカインの血管内誤投与による心毒性を軽減した長時間作用性の局所麻酔薬である。本薬は、動物試験および摘出脊髄後根神経を用いた試験から分離麻酔作用を有する事が示唆された。また本薬の痙攣発現解析から致死的な不整脈発現に至る危険性が他剤に比べ低いことが示された。非臨床成績および臨床成績から、レボブピバカインの薬理学的特徴について論述する.
(田矢廣司 長時間作用性局所麻酔薬 塩酸レボブピバカイン(注射剤ポプスカインR)の薬理学的特徴および臨床試験成績 p.159)
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