特集
下部消化管疾患の病態研究
◆下部消化管は脳に匹敵する「複雑系」と,腸内細菌と共生する「特殊性」を有した臓器である.さらに病原性微生物や化学物質などと直接接することから関連する疾患は多岐にわたる.本特集ではこの魅力ある下部消化管研究の一端を紹介する.
(堀 正敏 「下部消化管疾患の病態研究とターゲットバリデーション」序文 p.185) ◆炎症性腸疾患と腸管マクロファージ
消化管は常に腸内細菌との共生関係にあり、特異的な抑制性免疫が発達している。正常腸管では自然免疫担当細胞であるマクロファージが炎症抑制性の性質を示し、腸内細菌に対する過剰な免疫応答を制御している。一方で、炎症性腸疾患では、腸管粘膜中に炎症性のマクロファージが存在し、これらは腸内細菌に過剰に応答し、IL-23などの炎症性サイトカインの産生を介して腸管炎症の慢性化に寄与している.
(鎌田信彦 炎症性腸疾患における腸管マクロファージの病的役割 p.186)
◆炎症時の消化管運動機能不全とマクロファージ
肝臓のKupffer cellなど臓器に常在しているマクロファージは各々の臓器特有の病態生理機能を持ち合わせている.消化管筋層部にも多数のマクロファージが常在しており,単球由来の滲出性マクロファージと共に炎症に伴う消化管運動不全の中心的役割を担っている.また,近年消化管常在型マクロファージがニコチン受容体α7nACh-Rを持ち,副交感神経刺激による抗炎症作用を持つことが明らかになり注目されている.
(堀 正敏 消化管炎症における筋層部マクロファージを介した消化管運動機能不全 p.190)
◆過敏性腸症候群病態モデルと創薬ターゲット
過敏性腸症候群(IBS)は,便通異常(便秘や下痢)と慢性的な腹痛(内臓知覚過敏)を伴う疾患である.薬物治療は,専ら消化管運動異常の改善に注力し,腹痛に対する治療薬は未だ開発段階である.基礎研究では,近年になってIBSの病態生理に類似した内臓知覚過敏モデル動物が作成された.これらの病態モデルは,いくつかのターゲットで内臓知覚過敏改善を目的とした創薬研究に利用されている.
(土井(大橋)雅津代 過敏性腸症候群の病態モデルと創薬ターゲット p.194)
◆下部消化管炎症と消化管ペプチド
炎症性腸疾患であるクローン病および潰瘍性大腸炎はともに厚生労働省によって特定疾患に指定されており,未だ病態を根治的に改善する方策は確率されていない.近年,消化管における消化,吸収,運動などの生理機能を調節する,各種の消化管ペプチドが炎症性腸疾患の病態に関与することが報告されている.今回,炎症性腸疾患における消化管ペプチドの役割について最近の知見を概説する.
(東 泰孝 下部消化管炎症における消化管ペプチドの役割 p.199)
◆NSAID誘起小腸傷害の病態生理
非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal antiinflammatory drug: NSAID)が胃のみならず小腸にも傷害を惹起することが近年臨床において問題となっている。また、関節炎発症時にはNSAIDによる胃および小腸傷害が著明に増悪することが明らかになった。本稿では、これらの病態に関与する様々な因子について概説する.
(加藤伸一 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)誘起小腸傷害の病態生理:関節炎発症時における小腸傷害の増悪 p.203)
実験技術
◆過敏性腸症候群病態モデルの作製
ラットを使った身体拘束によるストレス誘発大腸知覚過敏モデルは,拘束下で有意な排便亢進を示し,大腸伸展刺激法により過敏性腸症候群の患者に類似した大腸知覚過敏を示す有用な病態モデルである.本稿では,我々が行ってきた拘束ストレスの作製法と大腸知覚過敏の評価法として大腸伸展刺激による視覚的な腹筋収縮の検出法を紹介する.(河合光久 過敏性腸症候群の病態モデルとその作製技術 p.206)
創薬シリーズ(4) 化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験:序
◆序 創薬探索段階での薬物動態研究
今月号から,創薬シリーズの一環として「化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験」がスタートする.本稿は,その序として,薬物動態研究関連のスクリーニングを紹介する.また,今後どのような評価系が望まれ,どのように戦略的に使用すべきかを開発効率の面から記述し,さらに,探索薬物動態部門が抱える問題について実際にプロジェクトを運営する現場から問題提起する.
(嶋田 薫 序: 創薬の探索段階における薬物動態研究の意義と実践 p.210)
新薬紹介総説
◆チロシンキナーゼ阻害薬 スニチニブリンゴ酸塩 (スーテントR
カプセル12.5 mg)
スニチニブリンゴ酸塩は腫瘍の細胞増殖,血管新生および転移の制御に関与する様々な受容体型チロシンキナーゼを選択的に遮断する経口チロシンキナーゼ阻害薬であり,本邦ではイマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍(GIST)および根治切除不能または転移性の腎細胞癌の治療薬として2008年4月に承認された.本稿ではスニチニブの薬理学的特徴および臨床試験成績を紹介する.
(田原 誠 スニチニブリンゴ酸塩(スーテントR カプセル12.5 mg)の薬理学的特徴および臨床試験成績 p.215)
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