特集: 薬理学研究に使う統計
生物実験を企画する際と,その結果を評価する際の双方で生物統計学は重要な役割を果たす.薬理試験においても統計学の質を向上させることが要求されてきている.本特集は,このような背景を踏まえ,薬理学研究に使う統計手法について,4報の総説によって,我が国の薬理学研究の統計手法の現状分析とその改善へのアプローチを示すものである.
(浜田知久馬「薬理学研究に使う統計」序文 p.305) ◆薬理学研究での統計手法の実態
最近の薬効・薬理試験の統計解析法の動向を調べるため,Journal of Pharmacological Sciencesの約400報について文献調査を行い,この10年間の統計解析法の変遷について評価した.また,統計手法の記述内容の適切性を評価した.その結果,統計手法とその記述法には改善はみられなかった.本論文では,以上の調査結果から,薬理学雑誌の統計の質を高め,適正化するための方法の提言を行う.
(浜田知久馬 薬理学研究での統計手法の実態―典型的な誤用とその解決方法― p.306)
◆酵素阻害様式選択のための統計的アプローチ
酵素阻害反応の阻害様式の選択は,従来からLineweaver-Burkプロットなどの直線を作成して薬理研究者の視覚的評価により行われている場合が多いが,そのような選択方法は客観性に欠けると考えられる.より客観的に阻害様式の選択が行える統計学的方法論として非線形最小二乗法に基づいた方法を本稿で評価する.(赤澤理緒 酵素阻害様式の選択のための統計的アプローチ p.313)
◆用量反応曲線におけるEC50の推定
広い用量反応関係を検討するin vitro試験薬理試験では,しばしば大きなサンプル間変動を含むデータが得られる.このようなデータに対して,非線形混合効果モデルを適応した場合の母集団パラメータの推定精度を検討した.従来用いられている2段階法と比較し,適切な解析モデルと推定方法を組み合わせることにより,精度良い推定結果が得られることが示唆された.
(山田雅之 変量効果を含むシグモイド型用量反応曲線におけるEC50の推定 p.319)
◆経時データ解析の考え方
薬理学研究から得られた経時データに対する反復測定分散分析は,投与前値を含む実データを使うか,投与前値からの差のデータを使うかにより分散分析表の解釈が異なる.これに引き続き行なわれる時点ごとの多重比較法による輪切り検定が薬理作用を過大評価する危険性を指摘した.多様な経時データの特徴の捉え方を例示し,それに即した統計解析について解説した.特に投与前値の扱いについて,使い分けを具体的に示した.
(高橋行雄 薬理学研究における経時データ解析の考え方-血圧降下試験事例による解説- p.325)
実験技術
◆マウス排尿機能測定法
マウスの排尿活動を無麻酔・無拘束下,昼夜連続で記録可能な新規方法が開発された。従来の方法に比べて1回排尿時の尿重量の経時的推移や排尿速度を測定可能にするなど詳細な解析が可能である。遺伝子改変マウスでの機能解析や薬効評価への応用が期待される.
(山本巌 マウス排尿機能の無麻酔・無拘束・昼夜連続測定法 p.332)
創薬シリーズ(4)化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その1)吸収③
◆創薬段階でのIn vivo吸収性評価
薬物の吸収には複数の機構があるため、創薬段階においても高次評価としてモデル動物を用いたin vivo評価を実施することが望ましい。しかし、in
vivoでは代謝なども寄与する生物学的利用率 (BA) と吸収率を切り分けることは困難である。適切な仮定をおくことによって、BAと吸収率を算出すること、適切なモデル動物の選択をすることが創薬段階における吸収性の評価には重要である.
(中井康博 創薬段階でのIn vivo吸収性評価 p.337)
新薬紹介総説
◆抗癌薬 セツキシマブ(アービタックスR)注射液
セツキシマブ(アービタックスR)は、EGFR(上皮細胞増殖因子受容体) を標的とするIgG1 サブクラスのヒト/マウスキメラ型モノクローナル抗体である。切除不能大腸癌患者を対象とした臨床試験において、既存の化学療法との併用および単剤投与で有効性を示しており、本邦では、昨年7月に「EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を適応症として承認された。非臨床成績および臨床成績からセツキシマブの薬理学的特徴について論述する.
(金子健彦 セツキシマブ(アービタックスR)注射液100 mgの薬理学的特徴および臨床試験成績 p.341)
◆β-ラクタマーゼ阻害薬配合抗生物質製剤 ゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウム(ゾシンR
)注射薬
2008年7月に承認されたβ-ラクタマーゼ阻害薬配合抗生物質製剤ゾシンR は、海外において重症感染症の標準治療薬として使用されてきた抗菌薬であり、国内においても院内肺炎診療ガイドラインの第一選択薬として推奨されるなど、重症・難治性感染症に対してペニシリン系抗菌剤での治療を可能とし、耐性菌出現抑制にも寄与するものと考えられる.(宇治達哉
β-ラクタマーゼ阻害薬配合抗生物質製剤「注射用タゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウム」(ゾシンR 静注用2.25,
ゾシンR 静注用4.5)の薬理学的特性および臨床効果 p.351)
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