総説
◆バソプレシン受容体と精神機能
バソプレシンは下垂体後葉ホルモンとして体液および循環系の恒常性の維持に重要な役割を果たしている.バソプレシン受容体は大脳皮質や海馬など脳内に広く分布しており,精神機能における役割が注目されている.本稿では,バソプレシン受容体欠損マウスを用いた著者らの研究成果を紹介するとともに,精神機能におけるバソプレシン受容体の役割に関する最近情報を提供する.
(江頭伸昭 精神機能におけるバソプレシン受容体の役割 p.3)
◆GPCRを介した持続性Ca2+流入活性化機構
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)刺激によって惹起される持続性Ca2+流入は,興奮伝導,分泌,筋収縮,増殖・分化や生存・死といった多様な細胞応答において,重要な役割を担っている.本稿では,
GPCRであるエンドセリンA型受容体を介した持続性Ca2+流入の活性化機構について,Na+/H+交換輸送体を介したNa+流入の機能的重要性とNa+流入によって駆動するNa+/Ca2+交換輸送体ならびにTRPCチャネルに主眼をおいて概説する.
(堀之内孝広 Gタンパク質共役型受容体を介した持続性Ca2+流入の活性化機構:エンドセリンA型受容体を中心に p.8)
実験技術
◆精製飼料によるIn vivo蛍光イメージング自家蛍光軽減効果
蛍光を用いた生体イメージングは、近年様々な薬理研究での応用が期待されているが、食餌性自家蛍光は検出感度を低下させる大きな要因となっている。本稿では、生体蛍光イメージングを用いたデータ取得において、通常の穀物由来飼育繁殖用飼料の代わりに精製飼料を用いて自家蛍光を軽減させることの有用性について紹介する.
(伏木洋司 精製飼料D10001飼育による生体の自家蛍光軽減効果のIn vivo蛍光イメージングにおける有用性 p.13)
◆脳スライス標本での多ニューロン活動のカルシウム画像化
「多ニューロンカルシウム画像法」は、蛍光カルシウム指示薬を用いて多数のニューロンからスパイク活動を一斉に可視化する実験法である。回路内の個々のニューロンが、いつ、どこで、どのように発火したのかを明確に捉えることができるため、脳研究の次世代を担う新技術として期待されている。本稿では脳スライス標本を用いたイメージング法について解説する.
(水沼未雅 脳スライス標本を用いた多ニューロン活動のカルシウム画像化 p.19)
創薬シリーズ(4)化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験 その1:吸収④
◆創薬から開発までを見通したBCS戦略
薬物の溶解性と膜透過性の高低に基づいて化合物を4つのクラスに分類するBCS (Biopharmaceutics Classification
System)の考え方を創薬に導入することにより、経口投与後に問題となる現象を整理し、その原因をメカニズムから理解することができる。溶解性と膜透過性が良好な医薬品候補化合物を選択することで得られる開発上のメリットは大きく、創薬から臨床開発、さらには上市された後までを見通したBCS戦略を持つことが重要と考える.
(高木敏英 創薬から開発までを見通したBCS戦略 p.24)
新薬紹介総説
◆遺伝子組換え甲状腺癌術後診断補助剤ヒトチロトロピン
アルファ注射薬(タイロゲンR筋注用)
甲状腺全摘/準全摘を施行した患者を対象とした,遺伝子組換え甲状腺癌術後診断補助剤ヒトチロトロピン アルファ(遺伝子組換え)(販売名:タイロゲンR筋注用0.9
mg)が,承認された(2008年10月16日).本剤を使用することで,患者は甲状腺ホルモン剤の服用を中断することなくTg試験および放射性ヨウ素シンチグラフィーによる診断が可能となった.
(岸田博 遺伝子組換え甲状腺癌術後診断補助剤ヒトチロトロピン アルファ(遺伝子組換え)(販売名:タイロゲンR筋注用0.9
mg)の薬理学的特長および臨床効果 p.28)
◆尋常性ざ瘡治療薬アダパレンゲル(ディフェリンRゲル)
「ディフェリンRゲル0.1%」はガルデルマ社が創製、開発した国内初の尋常性ざ瘡(ニキビ)治療の外用剤で、既に世界80カ国以上で承認され、海外では延べ2,200万人超の患者に使用されている。日本皮膚科学会尋常性ざ瘡治療ガイドライン(2008年発表)にて、面皰ならびに軽症から重症の炎症性皮疹、さらには維持療法においても推奨度A(使用を強く推奨)と位置づけられている.
(宮井恵里子 新規外用尋常性ざ瘡治療薬アダパレンゲル(ディフェリンRゲル0.1%)の薬理学的特性と臨床使用成績 p.37)
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