総説
◆アルツハイマー病とワクチン療法
アルツハイマー病の根本的治療法として注目されたワクチン療法であったが、ヒトでの治験は副作用の出現により中止され、その後の追跡調査では、認知機能の低下は食い止められなかったという残念な結果が報告された。しかしヒトでの治験から得られた貴重な情報は、あるべき新しいワクチン療法についての展望をもたらしてくれた。本稿ではこれからのワクチン療法の可能性について考察したい.
(松本信英 アルツハイマー病に対するワクチン療法研究の進展 p.59)
◆喘息における組織リモデリングとマスト細胞
喘息患者の気道は慢性炎症と組織リモデリングによって徐々に不可逆的に閉塞していく。喘息治療標準薬ステロイド薬は症状を改善し強く炎症を抑制するが、組織リモデリングを阻止することは困難である。本稿においては、組織リモデリングの紹介と喘息における組織リモデリングに中心的な役割を演じているマスト細胞の作用について概説する.
(斎藤博久 喘息における組織リモデリング:マスト細胞の役割を中心に p.64)
実験技術
◆高速原子間力顕微鏡を用いた受容体の1分子イメージング
本稿では、水溶液中で生体分子の表面構造をナノスケールで観察する事ができる原子間力顕微鏡(atomic force microscopy)を用いて単一のATP受容体の三量体構造,活性化に伴う構造変化およびポアダイレーションに相当する構造変化の観察に成功した成果を紹介し,当該研究分野でブレイクスルーをもたらし得る本実験手法について解説する.
(篠崎陽一 高速原子間力顕微鏡を用いた受容体の一分子イメージング p.68)
◆生体機能解析および創薬への微小重力環境の利用
重力が生体に及ぼしている影響を調べるには1G下と微小重力下での生体機能の比較が一つの手段と考えられるが、微小重力という環境は非常に限られた方法でしか得ることが出来ない。航空機によるパラボリック(放物線)飛行により得られる微小重力環境においてマウスを用いた実験を行うことが出来た。パラボリック飛行による微小重力下で行った実験に基づいて、実験に関する方法論および実験上の注意点に関して紹介する.
(太田尚 生体機能解析および創薬への微小重力環境の利用 p.73)
創薬シリーズ(4)化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その2) 分布①②
◆タンパク結合評価
血漿中薬物の一部はアルブミンなどのタンパク質に結合している。血漿中薬物の99%以上がタンパク質に結合している薬物の例も少なくない。タンパク質に結合した薬物は細胞膜を透過できず、組織への分布が制限されることから、タンパク結合は薬物の体内動態や薬理作用に多大な影響を及ぼす。本稿では、薬物の血漿中タンパク結合を評価する意義とその方法について紹介する.(榎園淳一 タンパク結合評価 p.78)
◆中枢への薬物分布におけるトランスポーターの機能と役割
中枢への薬物分布には、脳毛細血管内皮細胞で構成される血液脳関門に発現するトランスポーターが重要な役割を果たしている。本総説では、中枢への薬物分布に関わる血液脳関門のトランスポーターの機能と役割に関する最新の知見、およびトランスポーター機能の評価法について紹介する.
(大槻純男 中枢への薬物分布におけるトランスポーターの機能と役割 p.83)
新薬紹介総説
◆加齢黄斑変性治療薬ペガプタニブナトリウム(マクジェンR)
血管新生および血管透過性亢進に関与する血管内皮増殖因子(VEGF)は,滲出型加齢黄斑変性(滲出型AMD)の病態に関連しているといわれている.VEGFに結合しその受容体への結合を阻害するアプタマーであるペガプタニブナトリウムは,動物モデルにおける血管新生・血管漏出の抑制および滲出型AMD患者における視力低下抑制作用を示し,新規作用機序を有する滲出型AMD治療薬として期待される.
(永岡真 アプタマーの医薬品への応用:加齢黄斑変性治療薬ペガプタニブナトリウム(マクジェンR)の薬理学的特徴と臨床成績 p.87)
◆抗線維化薬ピルフェニドン(ピレスパR錠200
mg)
ピルフェニドンは特発性肺線維症の治療薬として世界で初めて本邦で承認された抗線維化薬である.本邦において実施された特発性肺線維症患者を対象とした第III相試験の結果,肺活量の悪化を抑制し,無増悪生存期間の延長に寄与することが示された.特徴的な副作用は,光線過敏症,食欲不振,胃不快感,γ-GTP上昇等であった.本薬が病態の進行を抑制し生命予後の改善にも寄与することが期待される.
(戸倉猛 抗線維化薬ピルフェニドン(ピレスパR錠200 mg)の薬理学的特徴と臨床効果 p.97)
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