特集:Gタンパク質共役型受容体の新規機能
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)に新しい機能が見出され注目されている。内因性タンパク質による受容体構造の変化に伴うGタンパク質との共役の変化をはじめとして、本分野のトピックについて概説する.
(中畑則道 「Gタンパク質共役型受容体の新規機能」序文 p.243) ◆GPCRの機能選択的活性化
GPCRは活性型、不活性型のいずれにおいても無数の高次構造を取り得ると考えるMulti-stateモデルを支持するデータが集積されている。特異な高次構造を誘導するユニークなアゴニストあるいはアロステリック調節因子の作用のもとでは、本来複数のGタンパク質を活性化するGPCRを介して、あるシグナル系のみを特異的に活性化(機能選択的活性化)することも夢ではない。
(飯利太朗 Ca感知受容体の機能選択的活性化:まれな疾患からのヒントp.244)
◆7回膜貫通型嗅覚受容体複合体のイオンチャネル活性
すべての嗅覚受容体はGPCRである、と長年考えられてきたが、昆虫はその例外のようだ。昆虫の嗅覚受容体にはそれまで明らかにされたGPCRのモチーフはなく、7回膜貫通構造を持つにもかかわらず、そのN末端は細胞内に配置する。さらにシャペロン様嗅覚受容体Or83bファミリーとヘテロ複合体を構成する。この受容体複合体には匂いで活性化されるイオンチャネルの機能が備わっていることが明らかとなった.
(佐藤幸治 昆虫の7回膜貫通型嗅覚受容体複合体が構成する匂い活性型イオンチャネル p.248)
◆GPCRとホスホリパーゼCシグナル伝達系調節機構
ホスファチジルイノシトールに特異的なホスホリパーゼC(PLC)は、GPCR刺激によるCa2+に依存した生理反応の発現に重要な役割を果たしている。このPLCで媒介される反応が亢進すると、循環器系や免疫系の多くの疾患の背景となることから、その抑制機構は治療薬の標的として重要である。そこでPLCの負の制御機構について、他の情報伝達系とのクロストークを中心に解説する.
(松岡功 Gタンパク質共役型受容体を介したホスホリパーゼCシグナル伝達系に対する抑制性調節機構p.254)
◆トロンボキサンA2受容体の新規活性制御機構
トロンボキサンA2受容体(TP)はGqやG13の活性化が重要なシグナルとされている。最近、GPCR が二量体化することや受容体会合タンパク質によってその活性の制御が行われることが示されているが、本稿では、TPが二量体化によってTPアイソフォームの細胞膜分布が影響を受けること、TPのC末会合タンパク質KIAA1005によって受容体刺激シグナルの抑制が見られることを解説する.
(中畑則道 トロンボキサンA2受容体の二量体形成および受容体会合タンパク質による活性制御p.259)
総説
◆薬物併用効果の解析
医薬品の研究開発では薬物を併用した場合に生じる相乗効果の評価を求められることが多い。これに対して、仮説検定による解決が行われることがあるが、仮説検定では薬理実験のデータに対応できない場合や対応できても解析結果の意味が研究者の要求を満足させるには不十分である場合が多い。今回、併用効果を評価する上で解釈可能なパラメータを非線形回帰により推定する解析手法を紹介する。(杉本忠則 薬物併用効果の解析
p.265)
◆HMGB1を治療標的とする脳梗塞治療
1999年、Kevin Tracey らがHigh mobility group box-1(HMGB1)を敗血症ショックの遅延性メディエータとして再発見した。以後種々の炎症性疾患における関与が示唆されてきたが、脳梗塞急性期においても、壊死細胞からのHMGB1放出は脳内炎症反応を惹起し、血液脳関門の破綻をもたらす可能性が示唆されている。脳虚血急性期の脳内HMGB1動態と、HMGB1を標的としたshRNAや抗HMGB1抗体を用いた治療について紹介する.
(西堀正洋 HMGB1を治療標的とする脳梗塞治療 p.271)
実験技術
◆In vivo薬物-受容体結合解析法
In vivoにおける薬物の受容体結合は,薬物動態学的因子に加え,受容体を取り巻く内部環境因子や生理的神経調節機構などの様々な因子の影響を包含しているため,薬物投与後における薬理作用特性を反映している.
本解析は,pharmacokinetics (PK)とpharmacodynamics (PD)の統合的指標として,創薬・育薬だけでなく,医薬品の適正使用のための有用な情報を提供すると考えられる.
(山田静雄 In vivo薬物-受容体結合解析法 p.276)
創薬シリーズ(4)化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その3) 代謝④⑤
◆カルボキシルエステラーゼと創薬
Carboxylesterase(CES)は、エステル結合やアミド結合によって分子修飾された医薬品の代謝に重要な役割を果たしている。これらの分子修飾は、バイオアベイラビリティや薬効の改善を達成することが可能な創薬手法の一つである。本稿では、創薬を考える上で、代謝活性化の中心的役割を担っているCESの細胞局在性、基質特異性、種差、臓器差、個人差について概説する.(今井輝子
カルボキシルエステラーゼと創薬 p.281)
◆チトクロムP-450の阻害に基づく薬物相互作用
チトクロムP-450(CYP)阻害に基づく薬物相互作用は、臨床で認められる相互作用の大半を占めており、治療効果の変化や毒性発現につながる可能性がある。したがって、より安全な医薬品の開発には、代謝に関わるCYP分子種の同定と共に、CYP阻害作用の評価は欠かせない.本稿では、CYPの阻害様式と阻害に基づく相互作用の発現機序、創薬における相互作用評価法について簡単に紹介する.
(吉成浩一 チトクロムP-450の阻害に基づく薬物相互作用 p.285)
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