特集:心房細動の薬物・非薬物療法の現状と将来展望
老齢化社会を迎え、心房細動患者数が増加している。心房細動の治療に対する考え方は過去10年間で大きく変わった。非薬物療法が進歩すると共に、大規模臨床試験によってその薬物治療の妥当性が検証されている。心房細動薬物療法の将来を考察する.
(中谷晴昭 「心房細動の薬物・非薬物療法の現状と将来展望」序文 p.51)
◆心房細動治療のoverview
心房細動(AF)の治療には洞調律維持を図る抗不整脈薬療法(リズム治療)と頻脈を抑制する治療(レート治療)がある。抗不整脈薬が奏功しない場合は非薬物治療(カテーテルアブレーション)が第二選択として考慮される。心原性脳梗塞のリスク例にはワルファリンによる抗凝固療法が適応となる。さらに高血圧、左室肥大、心不全などのAF発症の助長因子の治療も必要となる(アップストリーム治療)。これらの現状と展望について概説する.(奥村 謙 p.52)
◆心房細動薬物療法の大規模臨床試験
心房細動の薬物治療戦略にはリズムコントロールとレートコントロールがある。本邦の大規模臨床試験において、発作性心房細動に対してリズムコントロールを目的に適切な抗不整脈薬を使用すれば予後を悪化すること無く、QOLを維持することが出来ることが示された。しかし、持続性心房細動に対してリズムコントロールを行うことは危険性も高く、レートコントロールの方が望ましいことが示された.(中谷晴昭 p.55)
◆心房細動のアップストリームアプローチ
実際に不整脈が起こってしまった場合の治療戦略を"downstream 療法"というのに対して、不整脈の発生をもたらす病態そのものの進行を抑える治療戦略を"
upstream療法"という。心房細動の治療には通常抗不整脈薬が使用されるが,抗不整脈薬のみで心房細動の発生をもたらす病態そのものの進行を抑えるのには限界がある。そこでリモデリングを修飾する体液神経因子のひとつであるレニン-アンジオテンシン系の心房細動における意義について述べる.(熊谷浩一郎 p.59)
◆心房細動のダウンストリームアプローチ
心房細動は心原性脳塞栓症発症の最大の危険因子であり,積極的な治療と管理が要求される.様々な治療法の中で,抗不整脈薬を用いたダウンストリームアプローチは重要な位置づけにあるが,有効性と安全性の課題が治療効果に限界をもたらしていることは否めない.本稿では,心房特異的に発現する標的分子をターゲットにした新たな創薬コンセプトが,ダウンストリームアプローチを抜本的に変革できるのか、その可能性を検証したい.(山下 徹 p.62)
◆心房細動の非薬物療法
多くの心房細動が、肺静脈心筋起源心房期外収縮により発生するという発見を基礎に、肺静脈開口部周囲への焼灼により、肺静脈心筋と心房筋を電気的に離断し、心房細動の根治効果を発揮する肺静脈隔離アブレーションが考案された。本法は、現在、拡大肺静脈隔離アブレーションへと発展し、心房細動の非薬物治療として広く施行されるようになった。本稿では、拡大肺静脈隔離を基礎とした心房細動アブレーションについて概説する.(高橋 淳 p.66)
総説
◆動物実験の第三者評価制度
実験動物の飼養、動物実験計画の立案、動物実験の実施等にあたっては、動物福祉への細心の配慮と実験計画における高い倫理性が求められる。動物実験の実施施設における第三者認証(外部検証)制度は、それを検証し評価するシステムとして、動物福祉に配慮した適正な動物実験を実施してゆく上でその役割は大きい。本稿では、わが国においてスタートした動物実験の実施施設における第三者認証(外部検証)制度設立にいたる経緯と、その概要を紹介する。(佐神文郎 p.71)
創薬シリーズ(4)化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その4)排泄③
◆胆汁排泄とトランスポーター
薬物トランスポーターは代謝酵素と並んで、いまや異物解毒システムの中核をなす分子として認知されている。特に遺伝子多型や薬物間相互作用による機能変動が薬物動態・薬効・副作用に与える影響を調べる臨床研究が次々と実施されており、トランスポーターの重要性は高まる一方である。本稿では、トランスポーターの最近の知見をまとめるとともに、臨床における重要性を示した.(前田和哉 p.76)
創薬シリーズ(4)化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その5)その他①②
◆非臨床PETイメージングの創薬研究への応用
新しい医薬品が生まれにくくなっている現代において、より有効性が高くより副作用が少ない医薬品となりうる化合物を、多くの候補物質の中から効率良く見出すための手段として、更には実験動物を対象にした前臨床段階からヒトを対象にした臨床段階へのトランスレーショナル研究の手段として、PETによる分子イメージング技術が期待されている。PETにより、PK・PD試験を生きたままの個体で、高い定量性を持って実施する事が可能となる.(塚田秀夫 p.80)
◆In vitro試験からのヒト体内動態予測
医薬品開発において、ヒトの体内動態の定量的な予測は、開発候補品の開発可否判断に係る最大の関心事の一つであり、古くからin vivo、in vitro両面から試験され報告されている。その中から、特に近年盛んな、主としてヒト由来材料を用いた種々のin
vitro試験からのヒト体内動態予測法について概説する.
(中川俊人 p.84)
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