受賞者講演総説
◆神経-グリア回路網の機能異常を原因とする慢性疼痛および薬物依存に関する研究
薬物依存と慢性疼痛は、一見異なる現象ではあるが、いずれも神経回路網の可塑的変化がその根底にあ
り、グルタミン酸神経系が重要な役割を果たすなど共通点も多く見られる。受賞者らは、グリア細胞の病態
的活性化やアストロサイトのグルタミン酸調節機構の破綻により、神経回路網の異常な可塑性が促された
結果、薬物依存や慢性疼痛が惹起されることを明らかにしてきた.
(中川貴之 神経?グリア回路網の機能異常を原因とする慢性疼痛および薬物依存に関する研究 p.225)
◆Period遺伝子の発現制御を介した概日時計のリセット機構に関する研究
概日時計は光や食事を時刻の手掛かりとして外部環境に同調している。著者らは中枢時計の視交叉上核
内の光同調がGRP受容体を介した時計遺伝子Periodの発現誘導によって惹起されることを見出した。ま
た、EGFによる神経幹細胞の概日時計同調や食事による視床下部背内側核の概日時計同調もPeriod遺
伝子の発現を介することが明らかになった。本稿ではPeriod遺伝子を介した概日時計のリセットについて
紹介する. (守屋孝洋 Period遺伝子の発現制御を介した概日時計のリセット機構に関する研究 p.230)
総説
◆ヒスタミンH4受容体発現の臨床的意義
2000年に新規同定されたヒスタミンH4受容体は主に免疫系細胞に発現するが、新たにヒト滑膜細胞、真皮
線維芽細胞および表皮ケラチノサイトにおける発現を確認した。H4受容体遮断薬は関節リウマチあるいは
アトピー性皮膚炎などの慢性掻痒性皮膚疾患をターゲットとする新たな創薬シーズと考えられる.
(山浦克典 ヒト組織におけるヒスタミンH4受容体発現と臨床的意義 p.235)
◆細胞外pH環境を感知するプロトン感知性GPCR
OGR1、GPR4、TDAG8、G2Aは、2003年のLudwigらによる報告以降、細胞外プロトンを感知するプロトン
感知性GPCRであることが明らかとなった。細胞外pHの低下が起こっている炎症やがんなどで、プロトン感
知性GPCRを介した作用が細胞レベル、受容体欠損マウスを用いた個体レベルで報告されている。プロト
ン感知性GPCRの研究は、炎症やがんに対する新たな視点からの創薬へのきっかけにつながる可能性を
秘めている.
(戸村秀明 細胞外pH環境を感知するプロトン感知性GPCRの機能と作用機構 p.240)
実験技術
◆心筋細胞などの容積調節に関する評価法
動物細胞の容積を測定するシステムの中でも、簡便なシステムで高い測定精度と時間分解能が得られ、電
気生理学実験との併用も可能なのがビデオ画像解析法である。本稿では、各種細胞容積測定法の概略を
説明し、ビデオ画像解析法を用いた心筋細胞の容積変化の経時的解析の具体例を紹介する.
(山本信太郎 心筋細胞を中心とした細胞の容積調節に関する評価法 p.245)
創薬シリーズ(5) トランスレーショナルリサーチ②
◆スギ花粉症の予防・治療ワクチン
スギ花粉症は日本固有のアレルギー疾患で、その患者数は3000万人を超えたとも言われている。しかしな
がら、未だ根本的な予防・治療対策が十分整備されていない。本編では、スギ花粉を撲滅することを目標
に進められているスギ花粉症に対するワクチンの研究開発の最前線を紹介する.
(石井保之 スギ花粉症の予防・治療ワクチン p.250)
新薬紹介総説
◆がん化学療法用尿酸分解酵素製剤ラスブリカーゼ
新しい抗がん薬の登場や臨床エビデンスに基づく多剤併用療法により、がん化学療法の治療成績は向上
してきているが、この向上は支持療法の発展をなくしては語れないものである。造血器腫瘍や一部の固形
がんでは、化学療法に伴う高尿酸血症が、腎機能障害や急性腎不全などを引き起こす場合があるため、
適切な支持療法が必要とされている。ラスリテックRは、尿酸を直接分解する新規作用機序を有しており、
「 がん化学療法に伴う高尿酸血症」の改善を効能または効果とする薬剤である.
(大野桂司 がん化学療法用尿酸分解酵素製剤ラスブリカーゼ(ラスリテックR点滴静注用) p.255)
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