特集 時間薬理学と時間栄養学による新しい治療戦略の開拓
時計遺伝子の発見以来、体内時計システムが理解されてきた。時間治療戦略の中で、時間治療の中核をなす時間薬理学が発展し、投薬時間の重要性が認識され、一方で、栄養・食事療法でも時間栄養学を考慮する必要が認識され始めた(柴田重信 序文 p.109)
◆時間栄養学とはなにか
体内時計システムへの理解が進む中で、時間治療の中核をなす時間薬理学が発展し、投薬時間の重要性が認識されてきた。同様に、栄養・食事療法でも時間栄養学を考慮する必要があり、また、食品や栄養素で体内時計をリセットさせる機構の発見により、体内時計を調整する機能性食品の開発も進みつつある。そこで、治療戦略における時間薬理学と時間栄養学の有効性を論じる.(柴田重信 p.110)
◆時間薬理学とはなにか
体内時計の本体は、視神経が交差する視交叉上核に位置し、時計遺伝子により制御されている。時計遺伝子の機能と役割が生理学的側面より明らかにされつつあるが、今後の重要な課題として臨床応用があげられる。こうした状況の中で、薬の作用点である受容体や標的分子、薬の体内での動きを制御するトランスポーターや薬物代謝酵素の日周リズムも分子時計により制御されていることがわかってきた。
(大戸茂弘 p.115)
◆時間栄養学と健康
時間栄養学は、なぜシフトワーカーにメタボリックシンドロームが多いのか?なぜ夜食の生活習慣が不健康なのか?なぜ朝練はからだに良くないのか?なぜ内分泌・代謝リズム形成に摂食リズムが重要なのか?などに答える新しい健康栄養学である。今後、特定健診、スポーツ栄養、食育をはじめ、多くの公衆栄養学や臨床栄養学の分野に貢献すると考える.(加藤秀夫 p.120)
◆循環器疾患における時間治療
24時間自由行動下血圧測定法の普及に伴って血圧日内リズムの特徴、およびその病態学的意義が明らかにされた.高血圧性臓器障害の進展を抑制するためには夜間の血圧を適切に下げることが重要である.今後は、患者毎に血圧日内リズムの特徴を把握し、それに基づいて適切な降圧薬とその投与タイミングを選択する必要がある.(藤村昭夫 p.125)
総説
◆新規アディポサイトカインの血管系における作用メカニズム
本総説では近年メタボリックシンドロームとの関連が指摘され注目されている脂肪細胞由来サイトカイン(アディポサイトカイン)中でも比較的新規に同定されたvisfatin,
vaspin, omentin, chemerin, nesfatinを取り上げ, これらの血管系に対する作用機序について概説する.(山脇英之 p.131)
実験技術
◆分子ディスプレイ法 - 新規リガンド分子とワクチンの創製
細胞の表面にタンパク質やペプチド分子をディスプレイする「分子ディスプレイ法」は、新規分子の創出や、細胞へ新しい機能を賦与するのに威力を発揮している。幾つかの異なる分子ディスプレイ法について解説し、医薬へ発展する可能性がある取り組みを中心に紹介する.(芝崎誠司 p.136)
実験技術
◆新規マウスアレルギー性鼻炎モデルにおける抗原特異的即時相、遅発相および抗原非特異的鼻過敏性反応測定法
Whole Body Plethysmograph法によりアレルギー性鼻炎マウスの呼吸数変化を測定し、間接的に鼻閉を反映した動物モデルを構築した。これにより、抗原暴露量に応じた抗原非特異的過敏性反応、抗原特異的即時相ならびに遅発相反応を検出し、さらには種々遺伝子改変マウスを使用することにより、アレルギー性鼻炎の病態成立に関する幾つかの知見を見出した。本稿ではそれらの概略を紹介する。
(宮原聡子 p.141)
創薬シリーズ(5) トランスレーショナルリサーチ⑯⑰
◆トランスレーショナルリサーチに向けた病理学的研究
がん細胞特異的に存在し、全身正常組織に存在しない分子は、分泌タンパク質であれば血清腫瘍マーカーとして、細胞表面タンパク質であれば治療の標的分子として期待される。著者らは、SAGE法・CAST法を用いて消化管がん、特に胃がんに特異性の高い遺伝子の探索を行っている。本稿では、それらから同定された消化管がんの新規診断マーカー・治療標的について概説する.(大上直秀 p.146)
◆自家培養表皮:再生医療の産業化
ヒト細胞を用いた日本初の再生医療製品である自家培養表皮「ジェイス」が2007年に承認された.自家培養表皮は,患者自身の皮膚を原材料として作製した移植用の表皮細胞シートである.ジェイスの適応は重症の広範囲熱傷であり,熱傷創面に適用すると,表皮細胞が生着することによって創が閉鎖される.ジェイスを製品化する際に取り組んだ課題を解説するとともに,わが国における再生医療の産業化について考えたい.
(井家益和 p.150)
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