特集 中枢神経摂食制御の分子メカニズム
中枢摂食制御研究の現状と進展について概説した。視床下部弓状核、室傍核でのNPY、POMC神経の摂食制御と代償作用の詳細と、その機構の下流における神経制御(特にnesfatin-1)についての最近の成果をまとめた。一方、栄養状態、飢餓のセンサーであるAMPキナーゼによる中枢摂食行動の分子メカニズムについても最近の進歩を概説した。(樋口宗史 序文 p.161)
◆Nesfatin-1
Nesfatin-1は2006年に摂食抑制ペプチドとして報告された。近年nesfatin-1がオキシトシンを介して摂食抑制することが明らかになり、その摂食抑制神経経路はレプチン抵抗性の動物でも正常に機能することからnesfatin-1の肥満治療応用が期待される。本稿ではnesfatin-1の摂食抑制神経経路を中心に、最近報告されているストレス・循環・生殖機能についても最新の情報を含めて紹介する。(前島裕子 p.162)
◆NPY系
NPYおよびY受容体サブタイプのsiRNAベクターを成熟動物視床下部に局所注入したところ、NPY siRNAは弓状核で、Y1, Y5 siRNAは室傍核でのみ摂食行動を抑制した。このようにY受容体の摂食行動への部位特異性とNPY系への代償機構が示された。(樋口宗史 p.166)
◆AMPキナーゼ
AMPキナーゼ(AMPK)は、ほとんどの真核細胞に発現するセリン・スレオニンキナーゼである。AMPKは細胞内エネルギーレベルの低下によって活性化し、代謝を変化させてATPレベルを回復させる。視床下部AMPKは摂食調節に関与し、その作用の一部は神経細胞の代謝変化を介する。視床下部AMPKは、栄養素、ホルモン、神経伝達物質の情報を神経細胞内の代謝変化を通して統合し、摂食行動を制御する。(箕越靖彦 p.172)
総説
◆インドメタシンの新たな抗がん機構
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、最も多用されている薬物の1つであり、解熱鎮痛や抗炎症作用に加えて、結腸がんなどの治療および予防にも使用されている。ところが最近になり、NSAIDのCOX阻害以外の作用が報告され始めた。 本稿では一般的なNSAIDの1つであるインドメタシンについて、我々の研究を含む最近のCOX阻害以外の作用を紹介する。(藤野裕道 p.177)
実験技術
◆電位勾配を用いた経皮投与
一般に,受動拡散理論を基礎とする経皮投与において,必要な血中濃度を一定時間安定して維持させるのは容易ではない.そこで本稿では,競合イオンを考慮したイオントフォレーシスや,アイオニックパッシブと呼ぶ電位勾配に着目した製剤設計を行うことにより,従来難しいとされたイオン性薬物の経皮投与を容易にした技術について紹介する.(池本文彦 p.182)
創薬シリーズ(5) トランスレーショナルリサーチ⑱
◆ストレスと疲労のバイオマーカー
ストレス適応障害,うつ病,慢性疲労症候群など,精神的ストレスに起因する疾病が社会問題化している.評価や診断は,問診や質問表という主観的評価法が中心であり,バイオマーカーなどの客観的指標が求められている.慢性ストレスや精神的疲労の研究は歴史が浅く,バイオマーカーとして確証が得られたものはまだ存在しない.期待されるバイオマーカーの候補を紹介する.(田中喜秀 p.185)
新薬紹介総説
◆がん疼痛治療薬トラマドール塩酸塩(トラマールRカプセル)の薬理作用と臨床成績
トラマドールはμ-オピオイド受容体を介する作用ならびにノルアドレナリンやセロトニンの再取り込み系を抑制する鎮痛薬である.本邦において,速放のカプセル剤が「軽度から中等度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」の効能・効果で承認され,がん疼痛治療上の新たな選択肢の一つになることが期待される.本稿では,トラマドールの薬理学的特徴と臨床試験成績を紹介する.(廣内雅明 p. 189) |