特集 疾患と創薬の標的としての細胞内小器官イオン動態
細胞内小器官におけるイオン動態を制御する分子は長年に渡り不明であった。近年、その分子実体のいくつかが同定され、分子同士がダイナミックに連関することで小器官イオン輸送が成立されていることが理解されてきた。本特集では、細胞内小器官のイオン動態に関する最近の知見を紹介し、次世代創薬標的としての可能性を議論する。(清中茂樹 序文 p.201)
◆免疫細胞におけるストア作動性カルシウム流入の役割
Ca2+は様々な生理現象に深く関与するが、小胞体枯渇が誘導するCa2+流入、つまり、ストア作動性Ca2+流入(SOCE)の生理的意義及びその分子機序は長らく不明であった。しかし、小胞体Ca2+センサーとしてSTIM1が、そしてその標的となるCa2+チャネルとしてOrai1が同定され、大きく研究が進展した。本稿では、SOCEの分子機序ならびに免疫細胞での生理的役割を最近の知見をまじえて紹介する。(馬場義裕 p.202)
◆カルシウム放出チャネルとしての TRPM2 のβ細胞における役割
TRPM2 は活性酸素種などによって活性化される Ca2+チャネルである。これまで形質膜上のTRPM2 の役割については注目されてきたが、我々の研究グループは膵臓 ? 細胞において TRPM2 がライソソームにも発現しており、 Ca2+ 放出チャネルとして機能し、細胞死を引き起こすことを明らかにした。本稿ではその Ca2+シグナリングの詳細について解説する。またβ細胞における TRPM2 調節性の細胞死に着目し、一型糖尿病と TRPM2 の関与の可能性についても考察する。(山本伸一郎 p.207)
◆新規アニオンチャネルGPHRによるゴルジ装置pHホメオスタシス
細胞の機能維持に必要な環境因子の一つはpHである。ゴルジ装置は分泌・エンドサイトーシス経路の他の細胞内小器官同様、その内腔は弱酸性に保たれている。ゴルジ装置のpH異常を示す変異細胞株を樹立することで、その酸性pHがどのように調節され、どのような生理的意義をもつか、ということにアプローチできたので、その研究成果を中心に紹介する。(前田裕輔 p.212)
創薬シリーズ(5) トランスレーショナルリサーチ⑲
◆バイオマーカー探索手法と医薬品臨床開発への応用
生体反応や病的進行、あるいは治療に対する薬理学的な反応の指標として、客観的に測定・評価される項目であるバイオマーカー(NIH の考え方)は、今日の臨床開発では必須の手段になって来ている。 しかし臨床試験に利用できる新規バイオマーカー探索には、多数の異なる専門からの、それぞれに専門性の高い研究者が国際的あるいは学際的に協力することが必要である。(橋本康弘 p.217)
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