総説
◆中枢神経系の脂質代謝と神経変性疾患
中枢神経系のリポタンパクは血液脳関門によって末梢循環から隔てられており,中枢神経系内でグリア細胞により産生される.グリア細胞由来のアポリポタンパクE含有リポタンパクは受容体にリガンドとして結合し,神経細胞死の抑制や軸索伸長の促進を行うことが示されている.アポリポタンパクE4はアルツハイマー病発症の危険因子として知られているが,それ以外にも脂質代謝と神経変性疾患との深い関わりが明らかとなっている.(林 秀樹 p.227)
実験技術
◆定量NMRによる絶対純度測定法の開発
分析・評価対象となる有機化合物の市販標準品や試薬の純度の誤差が実験結果に大きな影響を与えているのは紛れもない事実である.この問題を解決する強力なツールとして,計量学的に信頼性の高い定量値または純度値を求めることができる定量核磁気共鳴法 (定量NMR: quantitative NMR (qNMR))が注目されている.(杉本直樹 p.232)
創薬シリーズ(5) トランスレーショナルリサーチ(20)、(21)
◆脳梗塞バイオマーカー研究とトラスレーショナルリサーチ
発症24時間以内の脳梗塞患者と、年齢と性をマッチングした健常者を対照とし、100項目の血中タンパク質マーカーの経時的測定と新規マーカー探索を実施した。脳梗塞各病型に特異的あるいは共通する多くのマーカーが見出され、脳梗塞の病態解明に有用であることが期待される。さらにサル脳梗塞病態モデルを用いて、臨床データとの類似点や相違点を明確にすることができた。バイオマーカーの探索結果をもとに、基礎研究でその機能を検証するreverse translational researchは脳梗塞の病態解明に有用であるとともに、新たな治療戦略の構築に有意義であると考えられる。(鈴木一夫 p.237)
◆新規抗がん薬の研究開発におけるトランスレーショナルリサーチ
医薬品開発の成功確率の低さを解決する手法として、トランスレーショナルリサーチ(TR)の重要性が高まっている。TRは基礎研究の成果を臨床現場で実用化させるための橋渡し研究であり、これまで新規がん分子標的薬の創製プロセスにおいて多くのTRが実践されてきた。しかしながら、難治性がん患者に対して延命作用を示す薬剤は限られている。この課題解決に向けて、アカデミアと産業界が連携することが重要である。(塩津行正 p.241)
新薬紹介総説
◆新規統合失調症治療薬パリペリドンER(インヴェガ®錠)の薬理学作用と臨床成績
パリペリドンは,日本国内および海外で非定型抗精神病薬として広く使用されているリスペリドンの主活性代謝物(9-ヒドロキシ-リスペリドン)であり,新規統合失調症治療薬として平成22年10月に新薬承認を取得した。パリペリドンの製剤(インヴェガ®錠)は,OROS®を利用した放出制御型徐放錠であり,24時間持続的にパリペリドンを放出し血漿中濃度を安定させることで,1日1回投与による統合失調症治療が可能になり,有効性および忍容性の向上が期待できる。(梛野健司 p.245)
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