特集:多様なライフステージにおける精神疾患発症に関わる環境因子とその創薬標的としての可能性
◆精神疾患の発症・病態形成に関わる多様なライフステージにおける環境因子として幼若期や発達後のストレスや加齢に着目し、神経可塑性、転写制御、炎症などの精神疾患治療薬開発の糸口となる新たな機序を紹介する。(古屋敷智之 序文 p.141)
◆幼若期ストレスによる成長後の情動行動障害 中枢神経系の発達過程において、神経細胞やシナプス伝達に関連する様々な分子が著しい変化を示す時期、すなわち臨界期が存在することが知られている。一方、幼児・児童期に受けた過度なストレス体験と、成長後の精神疾患との関連性が指摘されている。本稿では、臨界期という視点から幼若期に受けたストレスが成長後の情動行動表出におよぼす影響について紹介する。(山口 拓 p.142)
◆ストレス誘発性脳機能障害とストレス応答性転写因子Npas4の機能解析 胎生期から思春期に至る発育環境は、統合失調症などの精神疾患の発症に影響を及ぼす。我々は、離乳後からの長期隔離飼育あるいは慢性拘束ストレスにより、成熟後のマウスの学習・記憶や情動行動に障害が生じ、海馬における神経新生にも異常が生じることを明らかにしている。本総説ではストレスによる脳機能障害とストレス誘発性脳機能障害に関連する遺伝子について紹介する。
(永井 拓p.147)
◆ストレスにおけるプロスタグランジン系の役割と抗うつ薬の創薬 ストレスはうつ病など精神疾患のリスク因子とされるが、ストレス脆弱性を担う分子機序は不明である。我々は、心理ストレス下においてプロスタグランジン(PG)E2とその受容体EP1がドパミン系の抑制を介して衝動性を制御することを示してきた。近年PG合成阻害薬である非ステロイド系抗炎症薬が抗うつ作用を示すとの臨床報告も散見されることから、PGの各種受容体特異的な機能解析は新規抗うつ薬創出に繋がると期待される.(田中昂平 p.152)
◆加齢に伴う認知機能障害を標的とした薬物治療戦略 ヒト高齢者や加齢ラットを用いた研究から記憶学習障害に相関する海馬過活動の存在が示されたが、その意義は不明であった。近年、加齢ラット研究により、海馬過活動が記憶学習障害を促進することが示され、抗てんかん薬など海馬過活動を抑制する薬物が記憶学習障害治療への新たな戦略となる可能性が提示されている。現在、健忘型軽度認知機能障害における抗てんかん薬の臨床試験も進行しており、今後の展開が期待される。(Ming Teng Koh p.157)
総説
◆痒みの発生機序と鎮痒薬の薬理
皮膚における痒み因子とその受容体,痒みを伝える一次求心線維の性質,および脳・脊髄における痒み信号の伝達・調節の機序が徐々に明らかにされつつある。痒みの機序はまだベールに包まれた部分が多いが,明らかにされた情報が第二の新規鎮痒薬の開発に繋がることを期待する。(倉石 泰 p.160)
◆非神経性組織におけるグルタミン酸シグナリング
哺乳動物の中枢神経系においてグルタミン酸(Glu)は、興奮性神経伝達物質として機能するが、特定の非神経性末梢組織においても、Gluが細胞間シグナル伝達に使用される情報伝達物質の1つである可能性が提唱されている。本稿では、我々の骨関節組織での研究成果を中心に、非神経組織におけるGluシグナル関連分子の発現とその機能的役割に関して紹介する。(檜井栄一 p.165)
創薬シリーズ6 臨床開発と育薬(9)
◆薬理試験とGLPの今後の展望
薬害に端を発して1963年に米国でGMPが制定された。その後日本でも、1980年にGMPが厚生省令として公布され、治験薬GMPが1997年に厚生省薬務局長通知として発出された。本稿では、治験薬GMPの21の条文の中から「1. 目的」、「5. 治験薬製造部門及び治験薬品質部門」、「13. 変更の管理」、「14. 逸脱の管理」、「18. 教育訓練」を取り上げて、治験薬GMPを紹介する。(榊原敏弘 p.170)
新薬紹介総説
◆DPP-4阻害薬リナグリプチン(トラゼンタ®)の薬理学的特性および臨床成績
リナグリプチン(トラゼンタ®)は,DPP-4に対して選択性が高く,長時間持続性の強力な胆汁排泄型のDPP-4阻害薬であり,腎機能障害の程度の異なった2型糖尿病患者にも同一の用量で投与できる2型糖尿病治療薬である。(大村剛史 p.174)
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