特集:循環器疾患治療薬の研究戦略
高血圧には多くのクラスの薬剤がありながら,治療目標の実際の達成度はいまだ不十分である.これに対する,さらに有用性の高い治療薬の創製を目指した研究を紹介する.合わせて,予後不良な肺高血圧症への新たなアプローチを取り上げた.(芝野俊郎 序文 p.235)
◆新規ARBアジルサルタンの薬理作用
新規アンジオテンシンⅡ(AII)受容体ブロッカー(ARB)であるアジルサルタンはヒトAT1受容体からの解離が他のARBよりも極めて緩やかであった.また正常ラットにおいて24時間安定したAII昇圧抑制作用を示し,高血圧自然発症ラットではオルメサルタン メドキソミルよりも強力かつ持続的な降圧作用を示した.さらに既存ARBよりも強いインスリン感受性増強作用および腎保護作用を示した.従って,アジルサルタンは最も優れたARBとなることが期待される.(楠本啓司 p.236)
◆ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬の新たな治療コンセプト
ミネラロコルチコイド受容体(MR)拮抗薬は,古くは「カリウム保持性降圧利尿薬」との位置づけであった.しかし,近年のライフスタイル変化に伴う生活習慣病患者の増加により,既存治療薬のみでは効果不十分な高血圧患者に対してMR拮抗薬の追加投与が有効であることが明らかとなってきた.現在,既存薬の欠点克服を目指して,非ステロイド型MR拮抗薬の研究開発も進んでいる.近い将来,「組織保護作用の強い生活習慣病治療薬」に位置づけられる可能性がある.(吉川公平 p.241)
◆高血圧による臓器障害の予防
高血圧症の治療の最終目的は高血圧に合併する臓器障害を予防することにある.アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)とカルシウム拮抗薬(CCB)は降圧剤の中でも特に臓器保護作用が強い.ARBとCCBを併用することにより,単剤の結果からは予想できない臓器保護作用を示す.これには血圧に依存しないメカニズムが存在する.このような作用を有するARBとCCBの併用は,心血管イベント減少への貢献が期待できる.(水野 誠
p.246)
◆肺高血圧症治療薬としてのRhoキナーゼ阻害薬
創薬の分子標的としてタンパク質リン酸化酵素は最近ますます注目され,精力的に治療薬の開発研究が行われている.日本発であり,その先鞭をつけたRhoキナーゼ阻害薬について,肺高血圧症に関する知見を紹介し,その治療薬としての可能性について述べる.(瀬戸 実 p.251)
総説
◆変異sHSPタンパク質による細胞障害
低分子ストレスタンパク質(sHSP)の遺伝子変異は,様々な疾患の原因であることが知られている.現在,変異sHSPを発現している遺伝子改変マウスが多数作製されている.それら作製された病態モデルを解析した結果,sHSP関連疾患は,遺伝子変異によって発生した変異sHSPタンパク質自体が原因となり,細胞障害を引き起こすと考えられる.現在,これらのモデルを用いて,疾患治療の試みも行われている.(三部 篤 p.256)
創薬シリーズ6 臨床開発と育薬(13)
◆製薬の二面性
医薬品には,自由競争社会に生きる製薬企業が生み出すイノベーションの成果という側面と,社会主義的環境にある医療の世界で使用される公共財という側面がある.本稿ではこの二面性をつないで薬の価値評価を行う日本の薬価算定ルールについて,薬理非臨床試験や臨床試験との関係性を踏まえつつ概説する.(黒澤秀保 p.260)
新薬紹介総説
◆新規多発性硬化症治療薬フィンゴリモド
フィンゴリモド塩酸塩は,世界初のスフィンゴシン1-リン酸受容体1型(S1P1受容体)の機能的アンタゴニストであり,S1P1受容体を介したリンパ球の二次リンパ組織からの移出をブロックすることで,リンパ球の体内循環を制御し,薬効を発揮する.本薬は経口投与が可能な新規多発性硬化症治療薬として2011年9月に承認された.本稿では,その薬理学的特性および多発性硬化症に対する臨床効果について紹介する.(千葉健治 p.265)
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