特集:統合失調症治療薬の研究開発
統合失調症の病因に関する研究の進展から,新たな病態仮説に根ざした創薬が行われている.新規統合失調症治療薬創製のアプローチと薬剤の臨床効果をより正確に予測するための動物モデルおよびバイオマーカーの開発の現状を概説する.(茶木茂之 序文 p.101)
◆新しい統合失調症動物モデル
想定する統合失調症の仮説に基づき,ある動物種に対して疾患誘発法および評価法を設定することで,3症状(陽性症状,陰性症状あるいは認知障害)のいずれかのモデルとして利用可能となる.本稿では統合失調症動物モデルを4要素に分けて整理・解説し,その中でも特に霊長類を対象とした認知障害の評価方法について提言する.(池田和仁 p.102)
◆統合失調症治療薬開発のニューロイメージング
PET,MRI,CTに代表されるバイオイメージング技術は,非侵襲的に薬物の動態や作用を測定できるため,特に脳を標的とする治療薬開発のバイオマーカーとして多くの可能性を秘めている.本稿では,これらイメージングバイオマーカーが統合失調症治療薬の開発においてどのように活用されているかを,PET占有率試験を中心に紹介する.(尾崎諭司 p.107)
◆グループⅡ代謝型グルタミン酸受容体ターゲットの新規統合失調症治療薬
統合失調症の「グルタミン酸仮説」では前頭皮質神経回路の興奮/抑制バランス異常が生じていると考えられているが,グループⅡ代謝型グルタミン酸受容体(mGlu2/3受容体)アゴニストはグルタミン酸遊離抑制作用を介して,その異常を改善する可能性が示唆されている.本稿では,統合失調症「グルタミン酸仮説」において想定される神経伝達変化とmGlu2/3受容体アゴニストの統合失調症治療薬としての可能性について概説する.(日吉哲明 p.111)
◆統合失調症の新規創薬ターゲット探索
近年の基礎研究の飛躍的な進展により,統合失調症と関連する遺伝学的要因が同定され,多面的な研究アプローチにより見出されたエンドフェノタイプ(中間表現型)より,疾患の病態に迫ろうとしている.本稿では,古典的な創薬研究からの脱却を目指し,Rationaleに基づく次世代創薬アプローチについてその方向性を紹介したい.(多神田勝規 p.116)
総説
◆RA系と脳心腎連関
RA系が脳・心・腎の臓器障害,インスリン抵抗性等の代謝性疾患に関与していることが臨床で明らかとなり,その機序を解明することは循環器薬の創薬につながる可能性がある.また,RA系の下流にあるシグナル分子であるASK1が循環器疾患や代謝性疾患治療の有望な標的分子として期待される.(光山勝慶 p.121)
創薬シリーズ6 臨床開発と育薬(18)(19)(20)
◆GVP(Good Vigilance Practice)
2005年(平成17年)4月1日施行の改正薬事法に伴い,これに関連する適正使用情報の収集・作成,検討及び安全性確保措置の実施等に係る製造販売後の安全対策に係る事項として医薬品,医薬部外品,化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理基準に関する省令,GVP省令が制定された.GVP省令は医薬品製造販売業等の許可要件であり,医薬品製造販売業者が遵守すべき事項について定めている.(服部洋子 p.127)
◆がん分子標的薬(低分子)のファースト・イン・ヒューマン(First in Human)試験
本邦におけるがん分子標的薬の開発の推進のために,ファースト・イン・ヒューマン(First in Human)試験において,従来の殺細胞性抗がん薬とは異なり,健常志願者を組み入れることを提案する.分子標的薬の多彩な有害事象の発現を考慮した上での単回投与などを健常者で行うことが,患者の負担や不利益の軽減,開発の促進や期間の短縮などにつながると期待されよう.(加藤隆一 p.131)
◆医薬品情報とJAPIC
日本医薬情報センターは設立から40年を迎えた.業務の内容はIT技術の発展に従い,大きく変わってきたが,医薬品を安全に使用することができるよう,製薬企業,規制機関,医療関係者等に適切な情報を迅速に提供することの重要性は変わることはないと考える.近年のJAPICの新しい事業と,それらの背景や意義について紹介する.(村上貴久 p.135)
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