特集:慢性疼痛治療薬の研究開発戦略
慢性疼痛のメカニズムに関する研究の進歩により,痛みを伝達する神経上に発現するチャネルや痛みを惹起する液性因子などが少しずつ解明されてきた.それらを標的分子とした新薬の創薬研究が盛んに行われている.本特集では,それらの最新の動向とともに薬効予測性向上に向けた動物での痛み評価法の最近の進歩も含めて,慢性痛の新薬創出に向けた取り組みを紹介する.(青木俊明 序文 p.195)
◆神経障害性疼痛におけるthermo-TRPチャネルリガンド
温度感受性TRPチャネルは感覚神経終末や皮膚角質細胞等,疼痛発生部位を含む痛覚伝導路に広く分布し,生理的な痛みの受容だけでなく神経障害性疼痛にも深く関与することが近年明らかになりつつある.本稿では,ヒトでの検証段階に進んでいるTRPV1,TRPA1,TRPV3にフォーカスし,神経障害性疼痛におけるthermo-TRPチャネルリガンドの研究開発状況をアンタゴニスト/アゴニストに分けて紹介する.(亀井達也 p.196)
◆神経因性疼痛治療薬としてのサブタイプ選択的電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬
サブタイプ選択的な電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬は神経障害性疼痛治療薬として期待されるが,既存薬はいずれも選択性が低いことが課題とされる.そこで本稿では,サブタイプ選択的な電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬を探索するために,本研究所で実施している二つの評価方法について概説する.(渡邉修造 p.201)
◆PGE2とケモカインによる疼痛と免疫系の調節
神経系と免疫系は相互に影響しているが,我々は,炎症や疼痛に関与していると考えられていたPGE2がその受容体の一つであるEP4を介してCD4陽性のTリンパ球機能を調節していることを発見したので概説する.また,免疫系を調節しているケモカイン受容体CX3CR1とそのリガンドが,疼痛にも関与することを見出した.このように,一つの分子が神経系や免疫系の両者を調節していることは興味深い.(村本賢三 p.206)
◆鎮痛薬の創薬研究における新しい評価系
疼痛モデル動物における評価方法を改良し,臨床効果予見性を高めることは鎮痛薬の研究戦略における重要課題である.特に,前臨床(刺激誘発痛)/臨床(自発痛)評価指標の不一致を解決するために,疼痛モデル動物において自発痛を指標とした評価を導入する必要がある.本稿では課題解決の方策としての新しい鎮痛薬評価系,すなわち疼痛モデル動物における自発痛関連行動の自動測定法について概説する.(永倉透記 p.211)
総説
◆次々と明らかになるミクログリアの生理的新機能
ミクログリアは,脳内マクロファージとして病態時に活性型となり,病変部に集積,増殖し,損傷した神経細胞を貪食して排除する一方,生理活性物質を産生放出して神経細胞の修復を行っている.しかし,ミクログリアの起源がマクロファージ等とは異なり中枢神経系に特異的な細胞であること,正常脳の静止型ミクログリアが活性型の準備段階ではなく,脳内環境の監視,神経回路網再構成,神経活動の制御など,中枢神経系の生理的機能維持に積極的に関与していることが明らかになってきた.我々は特に,神経発達におけるミクログリアの重要性に関する新知見を得ている.(最上(重本)由香里 p.216)
◆トキシコゲノミクスとバイオマーカー
安全で安心な医療の実現および医薬品の効率的な開発の実現のため,トキシコゲノミクス研究の発展に大きな期待が寄せられている.本稿では,産学連携プロジェクトとして進められた第1期および第2期トキシコゲノミクスプロジェクトにおけるバイオマーカー探索等に係る研究成果を,トキシコゲノミクス研究の進展を示す事例として紹介するとともに,当該研究領域の将来について考察する.(山田 弘 p.221)
実験技術
◆光で分子の機能を操る光照射分子不活性化法
ポストゲノム時代の今日,高次生命現象を担うタンパク質機能解析において,機能が実際に発揮される時間と場所で解析を行うことが非常に重要である.光照射分子不活性化法はそれを実現させ得る研究方法として登場した.近年,改変法が次々と発表されたり,プロテオミクス解析の一環としてスクリーニング法などにも応用されたりして,この技術の新時代が到来している.(竹居光太郎 p.226)
創薬シリーズ6 臨床開発と育薬(23)
◆リスクマネジメントと育薬
2013年4月に,リスク管理制度が本邦でも導入される.開発段階から承認審査を経て市販後にわたって医薬品のリスクを適切に管理する.安全対策の速やかな実施が期待できるとともに,市販後のリスクマネジメントが一つの文書に整理されるため,医療従事者,企業,規制当局のみならず,患者さん等とも情報共有が可能となる.今後,有効性だけでなくベネフィットリスクバランスに視点を置いた情報の重要性は増していくと思われる.(丸井裕子 p.231)
新薬紹介総説
◆骨髄異形成症候群(MDS)治療薬アザシチジン
アザシチジンはRNAおよびDNAに取り込まれ,殺細胞作用ならびにDNAメチル化阻害作用により薬効を発揮すると考えられている.本剤は,「骨髄異形成症候群」の効能・効果で2011年1月に承認された.本稿ではアザシチジンの薬理学的特徴と臨床試験成績を紹介する.(高橋ゆかり p.235)
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