特集:不全心筋におけるカルシウムイオンの役割の多様性 心臓においてCa2+は,心筋の収縮性を制御すると同時に組織学的な変化を惹起し,心不全の病態を進行させる.本特集では,不全心筋におけるCa2+動態とその治療標的としての可能性に関し最新の知見を紹介する.(矢野雅文 序文 p.249)
◆心不全・致死的不整脈における細胞内カルシウム放出異常の分子機序 心筋細胞内のCa2+濃度は,筋小胞体(SR)を中心とするCa2+調節器官により制御されているが,不全心ではSR Ca2+ ATPase(SERCA2a)やSRのCa2+放出チャネルであるリアノジン受容体(RyR)の機能異常により細胞内Ca2+過負荷が生じ,心不全の発症ないし病態の悪化を引き起こしている.(矢野雅文 p.250)
◆心不全の新たな治療標的としてのカルシウムチャネル
心肥大から心不全発症に至る病的心筋リモデリングの過程に関与するCa2+チャネルとしてTRPCチャネルおよびT型Ca2+チャネルの発現制御,役割,およびその治療標的としての意義に関する最近知見を紹介する.(桑原宏一郎 p.255)
◆心不全の病態形成因子と治療標的としての心筋小胞体Ca2+-ATPase,SERCA2
心筋小胞体Ca2+-ATPase(SERCA2)は心機能を制御するタンパク質で,心不全では減少する.SERCA2遺伝子導入は,実験的心不全モデルで心機能や生命予後の改善をもたらした.また,臨床試験においても同様の有効性を示し,心不全治療の新たな手段として期待される.(新井昌史 p.259)
◆心不全における酸化ストレスとカルシウム過負荷
心不全患者においては交感神経の緊張などが心筋において活性酸素(ROS)を発生させる.ROSは脂質過酸化の過程で有害アルデヒド(HNE)を発生させ,このアルデヒドはさらにROS発生を亢進させる.ROSはCa2+制御タンパク質に作用して,Ca2+過負荷を引き起こす.β遮断薬はカテコラミンによるROS発生を抑制し,さらにカルベジロールはフリーラジカルスカベンジャーとしてCa2+動態を正常に保つ働きがある.(中村一文 p.265)
◆カルシウムにより惹起される心病態
カルシウムイオンは心筋において興奮収縮連関とカルシウム依存性シグナリング活性化の双方において中心的な役割を果たしており,カルシウムイオンの関与する収縮不全,心肥大,細胞死等は心臓における病態形成に非常に重要である.本稿では,心筋細胞のカルシウムイオン調節に関与する多様な分子の病態形成における役割について概説し,将来の心不全治療への応用に関して考察する.(中山博之 p.270)
総説
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脂肪酸をリガンドとするGPCR:生理機能と創薬標的としての可能性 脂肪酸をリガンドとするGタンパク質共役型受容体(GPCR)ファミリーの同定により,エネルギーとしての脂肪酸の役割に加えて,リガンドとしての役割が重要であることが明らかとなった.脂肪酸受容体のユニークな発現分布と生理機能から,生物学的な重要性に加えて種々の疾患メカニズムとの密接な関係と薬物標的としての可能性が示唆されつつある.本報ではこれまでの研究成果とともに最新の知見を紹介する.(原 貴史 p.275)
実験技術
◆オプトジェネティクスを用いたインビボ神経細胞活動制御法
複雑に絡み合う脳内の無数の神経ネットワークの中から,目的とする神経細胞の活動だけを光を用いて高い時間精度で操作するオプトジェネティクス(光遺伝学)の進化が著しい.特に個体動物の行動をも制御できる点が画期的である.新しい実験手法である光遺伝学の基礎知識から同実験手法を実際に導入するために必要な実験機器と手技について紹介する.(山中章弘 p.280)
新薬紹介総説
◆低分子抗リウマチ薬イグラチモド(コルベットR/ケアラムR錠25 mg)の薬理学的特性および臨床試験成績
イグラチモド(コルベットR/ケアラムR錠)は,炎症性サイトカイン産生と免疫グロブリン産生の抑制作用を特長とする疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)である.関節リウマチ患者を対象とした臨床試験では,単剤での有用性に加え,世界的な標準治療薬であるメトトレキサートへの上乗せ併用の有効性が検証され,本剤の医療上の意義は高いと考えられる.(田中啓一 p.285)
◆ヒト型抗RANKL抗体 デノスマブ(ランマークR皮下注120 mg)の薬理学的特性と臨床試験成績
RANKLは破骨細胞の形成,機能,および生存に関する必須のメディエーターであり,がん骨転移または多発性骨髄腫に伴う骨病変の進行において中心的な役割を果たす.デノスマブ(ランマークR皮下注120 mg)はRANKLに特異的かつ高い親和性で結合するヒト型抗RANKL抗体であり,がん骨転移または多発性骨髄腫に伴う骨病変の新たな治療選択肢として期待されている.本稿では,その薬理学的特性および臨床試験成績について紹介する.(真嶋修慈 p.295)
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