学会活性化のための改革私案
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目次
1 会員のための学会つくり
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日本薬理学会の地盤沈下がささやかれてから久しい。その要因は多いが、例えば古典薬理学から分子薬理学への変貌の中での薬理学のアイデンティティーの喪失と、薬理学会自身が確たる将来展望を見出していない点である。身近な現象としては、学会会員の漸減とこれに伴う会費収入の漸減、会員は5000人以上いるのに年会参加者はその半分以下、懇親会に参加するのはそのまた数分の一という事態、Jpn. J. Pharmacol.(以下JJP)への投稿論文数もImpact Factorも会員が望むような上昇機運にないこと、そして、とくに若い人の間で学会の人気がなくなったことなどである。 もちろん、理事会はこのような事態に手を拱いていたわけではない。「学会活性化」を旗印にして可能なことはすべてやってきた。薬理学の間口を広げる努力、会員の意見を聴取する努力、企業会員の理事起用、薬理学セミナーの開催、Web site(以下HP) の充実、JJPへの外国人編集委員起用、JJP優秀論文賞、日薬理誌の情報総合誌化、公開講座の開催、年会優秀発表賞、学生会費の設定などがその例である。 このような「ソフト」面の充実には当然のことながら多額の費用が必要である。しかし、学会予算は硬直化し、毎年の使途はほとんど決まっているので、大きな費用がかかる改革の実施は容易ではない。学会運営の体制は学会の歴史を反映して必ずしも効率化されていないことも予算を苦しくしている一因である。活性化に必要な運営費の捻出には、学会運営体制を合理化し、管理費を削減するしかない。 このような背景から、私は今期理事会に以下のような改革案を提案し、第4回理事会において検討課題として取り上げられた。本文は理事会提出資料に多少の説明を加えたものである。 1 会員のための学会つくり学会の第1の使命は、会員の納める会費を有効に使って会員の権利を守り、最新情報交換の場を提供することである。そのために、以下の改革が必要である。 1-1 組織改革1-1-1 役員選出の適正化選挙による理事が企業から選出されない。その原因としては、企業会員の「自己規制」が考えられる。学会民主主義、学会活性化、学会に世間並みの常識を持ち込む、などの観点から、これは無視できない問題である。トキシコロジー学会などのように通常の選挙で企業会員から理事が選出される雰囲気を作ることが理想であるが、そのための第一歩として、理事定員に企業枠を作ることも検討に値する。その場合に、現在の部会の理事定員枠内(北2名、関東5名、近畿5名、西南2名)で行うのか、それ以外の枠にするのかなど、「部会の利益」にかかわる面倒な問題があるが、この問題については今期理事会において取り組むことが決定されている(第3回理事会)。 同じ理由で、女性評議員、理事を増やす必要がある。これについても真剣に検討すべきである。 1-1-2 部会制の再検討グローバル化、IT化の時代、大学再編の時代に、部会制に固執する必要があるのか、部会制のメリットは何か、などの疑問がとくに若い人から聞かれる。地域毎の集まりを持つことは否定しないが、日本薬理学会が「地域団体」の集合体であるという構造がこれからの学会発展にプラスなのか、初心に戻って検討する必要もあろう。 1-2 事業改革1-2-1 JJP改革第1に、Impact Factorを上げる対策が必要。すでに編集委員会で検討が進んでいるものと重複するものもあるが、以下の対策が考えられる。 審査を迅速かつ公平にする。そのために、編集委員の権限を強化し、積極的に働くことができるようにする。とくに、レフェリーのコメントが適切かどうかを編集委員が厳密にチェックするとともに、著者からのクレームに迅速に対応する。このような労力に対して、編集委員経費を支給する。 海外編集委員を増員して、国内編集委員と同様に実質的に働いてもらい、編集委員経費を支給する。 ReviewはImpact Factorの向上に大きな役割を果たすので、編集委員全員の努力により、なるべく多くの優れたReviewを集める。 第2に、出版を迅速にする。審査期間の短縮、Accept論文は原稿段階で直ちに学会HPに掲載、出版までの時間短縮などを実施する。 第3に、JJPのCirculationをよくする。そのためにはJSTAGE経由の全文無料公開を続ける(この点は第4回理事会で承認された)。 これと関連して、数年後には論文審査からHP掲載までのすべての過程が電子化され、冊子体はなくすことが予測されているが、このような事態に対応できる編集体制、予算編成を早急に検討することが重要であろう。とくに、現在の編集部は冊子体の「編集」に関与するために多くの事務員を擁しているが、その見直しは緊急の課題と考える。 また、全文公開により会員がJJPを購入する必要がなくなる。評議員の2誌購入の義務は早急に解除しなくてはならないが、その場合、編集費用の負担を考慮して、会費をいくらに設定するのかも検討の必要がある。 1-2-2 日薬理誌改革会員にとって必要な情報をタイミングよく提供することが大きな目的の雑誌である。編集委員、企画協力のほかに積極的に協力してくれる会員を増やし、会員の要望をくみ上げて、それにすばやく答える体制を作る。若い人にアピールするようなカラー、写真、マンガを多用することも考える。そのために外部イラストレータを使うことも必要であろう。また、その内容のうち、適当なものはHPにもタイミングよく掲載する。 1-2-3 年会・部会改革部会の意味、部会の持ち方、開催回数を検討する。たとえば年会を年2回として部会を廃止する案、部会を「地域」部会ではなく「専門別」部会にする案、企画を会長に任せるのではなく、学会が資金もアイデアも出す案などがこれまでも浮かんできたが、正式の検討課題になることなく消えていった。これらについて真剣な検討が必要であろう。 年会・部会は実質を重んじて華(過)美は避け、できれば参加費を下げること、学生会員会費はとくに安くすることも重要である。 懇親会は「偉い先生の懇親」ではなく「会員の懇親」が目的である。最新の話題のポスターや最新の器具などを展示した中で、ビールとつまみ程度でよいから、無料あるいは安い会費にして若い人が参加できるようにし、若い人同士や若い人と「偉い」先生が議論できる場を作ることが懇親会の再生につながるのではないだろうか。 1-3 運営改革1-3-1 管理費削減昨年度の管理費は約6300万円。これを削減しない限り、学会活性化の費用が捻出できない。第一に考えなくてはならないのは、事務員の数と人件費が適正かを真剣に検討することである。数については、常勤4名とパート4名。人件費総額は4600万円、直接給与だけでも4000万円。管理費の約3/4が人件費関連である。また一般会員会費が3450万円 学術会員会費が2600万円であることを考えると、一般会員会費すべてをつぎ込んでも足りない人件費は問題ではないだろうか。 もちろん、このような事務員の数と給与額を設定したのは理事会であり、理事会はこの点について会員と事務員の両方に対する責任を負う。早急に検討を行い、全員が納得できる解決することが必要と考える。 1-3-2 分散事務所の問題「なぜ事務所が2箇所も必要なのか?」私自身が会員から何度も質問された。歴史的背景はともかくとして、学会運営の効率化の観点から早急に解決すべきである。 1-4 理事の意識改革(自戒の意味を込めて)理事は会員が納めた会費を最も有効に使い、その成果を会員に還元する義務を負う。したがって、理事は責任を持って改革を断行し、会員の負託に応える義務を負う。 「理事長と事務員がいれば学会は運営できる」とは、ある理事経験者のぼやき。理事が自分で勉強せずに事務員任せにするようであれば、事務員が何人いても足りない。 理事会によく出てくるのが「慎重に検討しましょう」。この言葉が、「私はやりたくないから、先延ばしにしよう」という意味でないことを、理事は実績を持って会員に示す義務がある。 2 国民のための学会つくり学会の第2の使命は、薬理学から国民へのメッセージを発信し、薬理学の市民権を確立すること、そして、薬理学の将来を担う可能性がある若い人に薬理学の面白さをアピールすることである。そのために、以下の改革が必要である。 2-1 HPの充実多くの人に情報を送るためにはHPの活用が最も効果的。最新の情報、国民が知りたい情報をタイミングよく掲載する、多くの人が持つ薬に対する疑問や悩みに答える、そのためにQ&Aコーナーを作る、専門用語を使わず、一般の人が理解できる言葉、内容にする、写真、図、マンガ、動画を入れて、飽きないようにする、そのためにHP作りの専門家を使う、少なくとも週に一回更新するなどの「言うは易く、行なうは難い」ことを実行しなくてはならない。そのために、会員の全面的協力、プロの登用。多額の費用が必要となる。 2-2 公開講座の充実年数回の充実した公開講座を開催する。その内容はタイミングよくHPに掲載する。 2-3 出版HPの内容、公開講座の内容を編集して、出版社の協力を得て、単行本として出版する。このような事業がうまく行けばHP費用の一部がカバーできよう。しかし、学会が金儲けのために動くわけには行かないので、その目的はあくまで広報である。 おわりに以上、学会改革に必要と思われる事項について、「ハード」面を中心に述べた。学会改革の中心である「ソフト」面、すなわち「薬理学と薬理学会のアイデンティティーの再確立」についてはすでに多くの意見が述べられている。その実施のためにハード面の改革が必須であることをぜひご理解いただきたい。 学会改革については、理事の間でその問題意識にも解決の方向にも温度差があることは事実である。会員がどのような方向を望むのかが今後の方針決定に大きな要素となろう。会員各位の忌憚のないご意見を頂きたい。 |