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「我が国における革新的医薬品創出のための日本薬理学会からの提言」
~薬理学パンフレットの送り状にかえて~

(社)日本薬理学会理事長
成宮  周

日本薬理学会は、「薬」に関係する研究者、技術者、教育者が、アカデミア、企業の所属を問わず、学問上の情報交換を行い、それを発信することにより、医学および医療の水準の向上に寄与することを目的として昭和2年に設立された学術団体です。薬理学は第一に「薬と生体の相互作用とその基盤となる生命現象を、個体、臓器、細胞、分子の各レベルで総合的に研究することにより、創薬と薬物治療の基盤を確立する科学」です。第二に「薬の“適正使用”に不可欠な作用・副作用の解明を通して薬物治療に貢献する科学」です。現在では、上記目的のもと、5千人を超える会員の学術交流の場として機能しています。

昨今、「医薬品開発」が、日本が今後の繁栄のためになすべきイノベーションとして政策的に位置づけられ、この方針により、文部科学省、厚生労働省、経済産業省によって、昨年4月「革新的医薬品・医療機器創出のための5カ年戦略」が策定されました。本年度には、上記3省に内閣府を加えて「先端医療開発特区」の創設が提案されていますことは、「薬」を学術の対象としております私ども日本薬理学会として意を得たところで、政策推進にあたられた関係各位のご努力に深く感謝するところです。

 ご承知のように、新規医薬品の開発、創薬は、開発すべき薬物の標的分子の同定から始まり、化合物スクリーニングにより、リード化合物(新薬候補化合物)の選定と最適化、候補化合物を用いた動物での効力とバイオマーカー等を用いた検証をへて臨床治験に至り、ここでの対象疾患における有効性の証明により治療薬として誕生します。この長い過程のなかで、もっとも重要なのは薬物開発標的、即ち「シーズ」の同定で、これ無くしては、以後の過程は成立しません。このシーズの同定は、生命現象そのものや病的事象の解析によりもたらされることが多く、ここに創薬での基礎研究の重要性があります。すなわち、創薬研究プロセスの中で、まず、リード化合物を見つけ出すための「シーズ」の同定が最も重要な過程であり、この「シーズ」の同定に関わる領域をカバーし、支えるのが基礎研究であり、基礎研究者なのです。もちろん、薬の“適正使用”に不可欠な作用・副作用、特にそのメカニズムの解明も薬理学の基礎研究なくしては成就できません。

ところが、医学部卒業生の卒後臨床研修制度や薬学部6年制の導入によって今後基礎研究に携わる研究者数の大幅な減少が予想され、私どもは、我が国の創薬薬理学研究の空洞化を危惧しています。先駆的な医薬品の開発・実用化は、基礎研究が創出する「シーズ」が必須であり、橋渡し研究システムの構築だけでは達成は困難と思われます。

今回、日本薬理学会では、上記過程における日本の薬理学研究の貢献をまとめた小冊子『医学と医療における日本の薬理学の貢献』を刊行いたしました。ここに冊子を同封いたしますのでご高覧賜れば幸いです。ここでは、薬理学研究がいかに生命機能の解明に結びつき、生命機能の解明がいかに創薬に結びついたかを、日本の薬理学研究を中心に記述しております。ここに示されているように基礎研究は創薬の根源で、その重要性は増すことはあっても減じることは無いと考えられます。

以上、これらの状況をご賢察賜り、今後、臨床研究推進に加えて、薬理学の基礎研究とこれに携わる人材育成への一層のご支援をお願いして、本冊子のご送付の挨拶とさせて頂きます。

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