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日本薬理学雑誌: 海外ラボ紹介 121-1-134 JHU

Department of Biological Chemistry,
Johns Hopkins University School of Medicine


630W 168thSt, New York, NY 10032, USA

私は,2001年8月から2年間の予定でJohns Hopkins大学(JHU)医学部に留学をしています.JHU は,ワシントンDC の北東約60km に位置するメリーランド州最大の都市ボルチモアにあります.

ここは古くから港町として栄え,その中心地であるインナーハーバーは観光名所となっています.JHU の病院を含むメディカルキャンパスは,インナーハーバーの近くにあり,周囲は治安がよくないエリアですが,普通に生活するには全く問題はありません.

ボルチモアは,全米でも10数番目の大きな都市であり,DC へ車で約1時間,ニューヨークへも4時間弱という都会的(?)な部分と,少し郊外にでるとアメリカの広大な自然が楽しめるという田舎的な部分がほどよくミックスされており,私はとても気に入って暮らしています.

JHU の病院は全米1位にランキングされるなど有名であり,世界各国から医師・研究者が集まり,最先端の医療・基礎研究が展開されています.そして,当然のことながら,各分野の数多くの大物がラボを構えています.私は基礎研究部門の1つであるDept. Biological Chemistry(http://biolchem.bs.jhmi.edu/) のDr. Michael J. Caterina のラボにポスドクとして研究に参加しています.

Dr. Caterina は,ポスドク時代に,とうがらしの辛味成分であるカプサイシンの受容体(バニロイド受容体,TRPV1)のクローニングに成功し,そのTRPV1は熱,酸,化学(カプサイシンなど)刺激を受容するポリモーダル侵害受容器であることを証明しました.更にTRPV2(VRL-1)のクローニングにも成功しています.

これら一連の仕事は痛み研究分野の最大の発見の1つとされており,Dr. Caterina はその業績が評価され,1999年11月に母校であるJHU にラボを持ちました.現在,Caterina ラボはポスドク2名,PhD学生4名,ラボテクニシャン1名,そしてDr. Caterinaの計8名という構成で,大きくはありませんが,実験から遊びに至るまでメンバー全員とよくコミュニケーションがとれ,大きなラボとは異なった良さがあります.

現在,Caterina ラボは,「暖かさ・熱さをどのようにして感じ,そして,区別しているのか?」という昔からある生理学上の疑問を分子レベルで解明することに挑戦しています.Non-selective cation channels であるTRPV1およびTRPV2は,それぞれ42℃ 以上および52℃ 以上の熱刺激で活性化されますが,その他にも,TRPV3とTRPV4が34℃ 以上の熱刺激によって活性化されることが見いだされています.

この新しい知見はCaterina ラボの仕事を含めて2002年に相次いで報告されました.また,22℃ 以下で活性化されるcold receptor,TRPM8(CMR1)も発見されています.このように異なった温度域で活性化される分子が次々に見いだされているわけですが,実際に生体内での役割はどうなのか?どのようなpathway によって温度感覚が伝達されるのか?他のheat- or cold-activated ion channels は存在するのか?など,未解明な研究が多く残されており,本領域は非常にhot でcool な研究分野になってきています.

まだ若いDr. Caterina は自ら実験を行いつつ,他の業務もこなし,精力的にラボを運営し,どんなに忙しい時でもラボメンバーとのディスカッションを非常に大切にしています.彼の研究に対する姿勢や実験の進め方,また,他人の話しをいつも真剣に聞き,いかなる時も親切且つ紳士的に行動する彼の人間性には感銘すべき点が多く,非常に有意義なアメリカでの研究生活を送っております.

世界のニューロサイエンスの中心であるアメリカで基礎研究に従事できることは非常に刺激的であり,この経験は今後の私の企業での創薬研究にも生かせるものと信じています.

大日本製薬(株)薬理研究所薬理第二研究グループ志水勇夫
(email: ishimiz1@jhmi.edu)

写真中列1番右がDr. Caterina,その左隣が筆者

JHU メディカルキャンパスの象徴的な建物,Hopkins Dome

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