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日本薬理学雑誌: 海外ラボ紹介 121-2-135 Columbia Univ

Department of Surgery, College of Physicians
& Surgeons, Columbia University


630W 168th St. New York, NY 10032, USA

アメリカ東部の名門大学であるコロンビア大学は1754年に設立された歴史ある大学で,アメリカの芸術とビジネスの中心地であるニューヨーク市マンハッタンにあります.メイン・キャンパスはアッパー・ウエストサイドのMorningside Heights に位置し,芝生と木々に覆われた美しい校舎は,旅行ガイドや映画のシーンにもしばしば登場しています.

一方,医学部,歯学部,看護学部,公衆衛生学部のあるヘルス・サイエンス・キャンパスは,さらに北上したWashington Heights にあります.ここには,いくつかの病院や研究所も集まりマンハッタン有数のメディカル・センターを形成しています.

旅行ガイドには「貧しいヒスパニックが多い住宅地で治安が悪く,旅行者はむやみに近づかないように」と書かれるエリアですが,センター周辺に限ればあまり危険ではありませんでした.2001年10月より1年間,私が留学しましたDepartment of Surgery は,Eric A. Rose 教授をChairman とする医学部の中でも非常に大きな部門で,clinical care, teaching, research を含む10ディビジョンより構成されています.

私が所属したSurgical Science Division には,Ann Marie Schmidt 准教授(赴任時はDavid M. Stern 教授,現Medical College of Georgia,Dean)をChief に3人の准教授と4人の助教授がおられ,各々のグループにおいて10~15名のメンバーが意欲的に研究に取り組んでいます.

私の研究テーマは,Stern 教授とShi Du Yan 助教授が進めてこられたRAGE(receptor for advanced glycation end products)およびABAD(amyloid β peptidebinding alcohol dehydrogenase)の神経脱落疾患における病態的意義に関するもので,Alzheimer 病での役割についてトランスジェニックマウスを用いて解析するものでした.

具体的には,RAGE,ABAD,mutant APP(mAPP)の各トランスジェニックならびにそのクロスによるABAD/mAPP トランスジェニックマウスから調製した培養神経細胞において,神経細胞の脆弱性やAβに対する感受性の変化などを発現機序も含めて検討を行っておりました.Aβの神経毒性については多くの研究報告がありますが,その結合蛋白に関する情報は非常に少ないのが現状です.

したがって,Aβ結合能をもつRAGE およびABAD を標的にしたAlzheimer 病の発症機構の解明というアプローチは非常に独創的で,私自身とても勉強になりました.また本研究グループでは,RAGE について糖尿病や動脈硬化との関連からも活発に研究を行っております.

渡米直前に同時多発テロが起こり一時は出発を躊躇した留学でしたが,同研究室へ留学中の大阪大学大学院医学研究科坂口太一博士および藤田知之博士から現地の状況説明を頂戴し,渡米を決心いたしました.現地での生活が直接テロの影響を受けることはありませんでしたが,以前ニューヨークを訪問した時に比べて,空港や観光スポットでのチェックはさすがに厳しいものがありました.

また,渡米3日後に起きた炭疽菌事件では,街頭に配置された数多くの警官や兵隊を目の当たりにし,厳戒下であることを痛感いたしました.喜んで良いものか複雑ですが,テロで観光客がかなり減少したためミュージカルなどのチケットは入手しやすく,週末や実験の早く終わった日はしばしば妻と劇場へ出かけました.マンハッタンには美術館も多く,研究だけでなく芸術・文化へも数多く接することができた1年でした.

最後になりましたが,本海外留学においてご厚情を賜りました大阪大学大学院薬学研究科馬場明道教授,松田敏夫教授ならびに金沢大学大学院医学系研究科小川智教授に深謝いたします.また,海外研究助成金の交付を受けました神戸学院大学に感謝いたします.

神戸学院大・薬・分析田熊一敞
(e-mail: takuma@pharm.kobegakuin.ac.jp)

教授室にて.左よりStern 教授,Yan 助教授,筆者

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