日本薬理学雑誌: Columbia Univ
Department of Pharmacology, College of Physicians & Surgeons, Columbia University |
630W 168th St, New York, N.Y.10032, USA |
1999年7月より、New YorkのColumbia大学医学部、Robert S. Kass教授の研究室に留学させていただいております。 Columbia大学医学部はManhattan島のかの有名なHarlemよりも北西部のWashington Heightsと呼ばれる地域に位置しております。Manhattanにありながら観光ガイドでは全く情報を得られず治安面に不安を抱いての渡米でした。 しかし、実際には24時間patrol carが巡回しており、学内はかなり安全に保たれています。とは言いましても、通勤の地下鉄では自然と車掌さんのいる車両に乗る癖がつき常に緊張感を持ち続けています。 またManhattanの住宅事情は厳しいですが、どのポスドクもなんとか自分に合った良いところを見つけ、それぞれのライフスタイルで楽しんでいます。仕事の合間や週末にジムやジョギングなどと健康を気にかける人が多くアメリカにしては太っている人が少ないのも、ここNew Yorkの特徴のようです。 私は週末にあちこちで行われるジャズの生演奏を聴き、やはり本場は違うと実感させられています。また、マンハッタンでは日本食を手に入れるのは難ないことであり、コロンビア大学正門付近のJapanコンビニエンスストアでは日本の野菜、雑誌、お弁当が日本とあまり変わらない値段で手に入ります。本も紀伊国屋で注文すれば、大抵手にはいるのでとても便利です。 私の所属する研究室は、ChairmanでもあるKass教授を中心に私も含めたポスドク5名、テクニシャン2名、学生2名の10名で構成されています。そのうちボスも含めた3名がアメリカ人で、あとはスイス、イタリア、中国、チベットなどいろいろな国からの出身で国際色豊かなラボです。昼食時には各国の文化、政治がよく話題になり、私も日本人としての意見を求められます。 相手に理解してもらうために自分のアイデンティティなどについて論理立てて話すことは、とても良い訓練というだけではなく自分を省みる良い機会にもなっています。なるべくどのような会話にも積極的に参加するように努めています。そのお陰もあってなのか週末には同僚たちの家に招待し合ったりレストランに行ったりと家族ぐるみで親しくしているので、実験で困ったとき休日に出て行かねばならないときなどの助け合いがとてもスムーズにいっています。 研究面では、全体としてはlong QT症候群の原因遺伝子がある心臓電位依存性イオンチャネル(主にslow delayed rectifier K+ channelとNa+ channel)の機能解析と不整脈機構解明というテーマをもとに個々のポスドクが1つから3つぐらいのプロジェクトを受け持って実験を行っています。 主に発現系または単離心筋細胞で電気生理学的手法により電流を記録しています。いくつかの新しいトランスジェニックマウスも試験中です。私はslow delayed rectifier K+ channelの細胞内制御機構の解明が現在の主なテーマで、分子生物学的手法が得意なDr. Andrew Marksの研究室とも共同研究をしており、とても勉強になっています。 他のポスドクが行っている薬物作用機序の解析では化学科の学生と共同研究をして詳細な解析を試みています。ディスカッションは実験の合間実験中、ボスがいるときいないとき、ラボのメンバーで常時行われており、とても刺激になります。 月2回の他のラボとの合同ミーティングでは個々のデータを発表する機会が与えられます。これは英語にハンデのあるポスドクたちへの教育的意味も大きいのですが、違った視点での討論やそれぞれのテクニックを持ち寄ることにより全体としての研究の質と効率の向上に非常に役に立っています。 ボスはChairmanの仕事で忙しいのですが、ラボでサイエンスについて話す時間を大切にしておられとてもありがたく感じています。おもしろい実験結果がでるとe-mailでボスとやりとりしますが、週末や夜遅くでさえすぐに返事が来ます。そして次の実験計画のアイデアを夜から早朝までにメールで話し合い、試薬など材料が揃えば次の朝から取りかかることもしばしばです。 このように非常に効率よく実験を進めています。効率向上のためどのようなシステムで動くかということも常に議論の対象となり改良され続けており、アメリカの底力を感じます。 論文を書いた際には、論文の形にする課程での執拗なディスカッション、いろいろな角度からのデータ解析、単語1つにも妥協を許さない態度には本当に感銘を受けました。少しでも多くのことを吸収してこの貴重な留学生活を充実したものにしようと思っております。 最後になりましたが、この留学に際しお世話になりました東京大学大学院長尾拓教授、ご援助いただきました上原記念生命科学財団、今回執筆の機会を与えてくださった東京大学大学院赤羽悟美助手に深く感謝申し上げます。 http://cpmcnet.columbia.edu/dept/gsas/pharm/
写真左から三番目が筆者 (Dr. Kassは写真に写っていないので下記のHPを参照) |