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日本薬理学雑誌: MCW

Cardiovascular Research Center,
Medical College of Wisconsin

8701 Watertown Plank Rd. Milwaukee, WI 532263

現在私が仕事をしているMedical College of Wisconsin(MCW)は,米国ウィスコンシン州のミルウォーキー市に位置しています.地理的に言うと,五大湖の一つであるミシガン湖畔にある,人口60万人弱の中規模な都市です.このウィスコンシン州は酪農で知られた地域で,ミルウォーキーはMiller Beer をはじめとしたビール産業がメインの都市です.

まるで私の故郷の北海道,札幌と似たような産業背景で,そのためか郊外の風景も北海道のそれと同じように感じます.私がいる研究室(ラボ)はこのMCW の4階にあるCardiovascular Research Center の中にある20あまりのラボの一つとして位置しています.このラボの主な仕事は,心臓外科手術で得られる右心耳の小片(小指の先くらいの大きさ)から直径100マイクロメーター前後の微小血管を摘出してin vitro で血管拡張作用を観察することです.

この心臓片を得るために,このラボではMCWの付属病院をはじめ,ミルウォーキーおよびその周辺の9つの病院と提携しており,毎日2-5標本がこれらの病院から得られています.その他,腹部手術で得られる脂肪組織や腸管からも微小血管が得られ,これらを用いて,さまざまな部位におけるヒト末梢循環のメカニズムを検討しています.

ラボは,教授のDr. David D. Guttermanの他,assistant professor にDr. Yanping Liu,そしてインストラクターとして,秋田大学出身の三浦博人先生が就かれています.ポスドクは私を含めて2名で,他大学院生1名,他の研究者1名,テクニシャン2名,病院からラボへ標本を運ぶ専任が1名で構成されています.

こちらの研究のメインテーマは,ヒト微小血管の内皮依存性弛緩反応,あるいは各種生理的薬理物質による拡張作用のメカニズムを検討することで,これらの研究を微小血管灌流装置,膜電位測定機具,パッチクランプ法,RT-PCR 法などを用いて行っています.とくに虚血性心疾患のメインの病変部位であるヒト冠動脈の拡張機能あるいは内皮依存性弛緩反応は毎日のようにモニターを介して直接目の当たりにすることができ,それから得られる知見はダイレクトに虚血病態の解明あるいはさらに創薬に結びつきうるものとして大変意義を感じています.

これまでに内因性の弛緩物質であるブラジキニンがヒト冠微小動脈も拡張しうることを確認し,そのメカニズムとしてカルシウム依存性カリウムチャネルを介した血管平滑筋膜電位の過分極反応が関わることが判明しています.また,近年内皮依存性過分極因子(EDHF)の本態の一つとされているcytochrome P450 monooxygenase代謝産物もヒト冠動脈拡張作用を有し,これも膜電位の過分極反応が介することが判明いたしました.

さらに同じく内因性拡張物質の一つであるアドレノメジュリンやシアストレス(ずり応力)による冠動脈拡張作用のメカニズムの検討など各種生理機能の他,分子生物学的手法も合せて検討しています.さらに,上記の基礎データを各種臨床情報をもとにmultiple stepwise regression analysis を行い,動脈硬化危険因子の血管拡張反応に対する影響を検討いたします.

これまでにアドレノメジュリンを介する冠動脈拡張作用が高血圧病態で低下することが統計的に確認されています.ヒト微小循環生理学については,臨床医学に直結しうる分野にもかかわらず,それを専門に行っているラボは世界的にも少なく,そういう意味では,私が現在おりますラボは非常に恵まれた環境と言えます.

今後はこの環境を生かして積極的にデータを発表していきたいと考えております.

http://www.mcw.edu/index.html

北海道大・院・医学・細胞薬理学 佐藤 篤司
(e-mail: atsushi@mcw.edu)

ラボのメンバー.左から3人目が教授のDr. David D. Gutterman

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