日本薬理学雑誌: 海外ラボ紹介 119-6-361
University of Alabama at Birmingham アラバマより |
Birmingham, AL 35294-2170, USA |
2001年8月1日よりUniversity of Alabama at Birmingham(UAB)のDepartment of Microbiology にpost-doctoral fellow として留学中です.バーミングハムはアラバマ州(州都はモンゴメリー)の中心部にある人口約30万人を有する州最大の都市で,以前は鉄鉱,現在はUAB を中心とした医療産業の盛んな都市です.UAB はバーミングハムのダウンタウンに位置しますが,少し郊外に行けば,強い日差しに青空,広葉樹に芝生というアメリカ南部の雰囲気が色濃く残っています.また,人々は明るく,親しみやすくSouthern hospitality が強く感じられ,治安も良好で,今では大変住みやすいところだと実感しています. しかし,私にとってアメリカ生活は第1日目より波乱の幕開けでした.まず右も左もわからぬまま経由先のデトロイトに到着したのが予定より1時間遅れ,さらに入国審査時に絶対に必要なIAP-66(VISA 発給のためのみならず,アメリカに長期間滞在する必要性が詳細に記述されている書類)を,迂闊にも機内預けのスーツケースの中に入れておいたため,入国審査時には手元にはなくそこで一悶着,デトロイトーバーミングハムの乗り継ぎ便にかろうじて最後の乗客としてすべりこみで搭乗しましたが,目的地のバーミングハムにつけば全ての荷物がロストバゲージでした. また,アメリカで生活するうえで最も重要なSocial Security Number(これがないと銀行口座も開設できない場合がある)の取得になぜか1カ月以上もかかり(通常は1週間以内),アメリカは何事も杓子定規で物事がスムーズに進まないものと腹を括りました.アメリカをご存知の方なら,アラバマと言えば田舎!と思われるかもしれませんが,UAB は全米でもトップクラスの医療施設を有し,NIH からのグラント取得金額でみると,UAB 全体では1997-1999年に全米20位,私の所属しますDepartment of Microbiology は,Microbiologyの領域で2000年には全米1位を記録し,非常に研究のアクティビティーが高い大学です. Department of Microbiology にはプロフェッサーだけでも16名が在籍し,私のお世話になっているDr. David D. ChaplinはDepartment of Microbiology のチェアマンも兼ねておられ,2001年7月にセントルイスのWashington UniversityよりUAB に移って来られました.現在はDr.Chaplin のラボにはgraduate student が2名,そして私の合計4名の人員的には小さい所帯ですが,実験機器等は極めて充実しており,現在人員の増加を含め徐々に拡大されつつあります.私がUAB に来ましたのはDr. Chaplin のラボの引越し直後だったのですが,すぐに実験をはじめることができる環境にあり,現在マウス喘息モデルを用いた病態の解析を行っています. Pharmacologist の私は,個体レベルのphysiological なparameter(気道抵抗)の変化をモニターしながら病態を解析することにこだわって実験を進めています.マウスの気道抵抗は,Department of Pediatrics のDr. Atkinson と共同研究を行うことにより,彼のラボで測定しています.Dr. Chaplin とは週に1回のマンツーマンのディスカッションをし,また週に1回ラボ全員でデータ検討会(Lab. Meeting)もしくは文献抄読会(Journal Club),さらに2週に1回のペースで5~6個のラボが集まってT cell biology group meeting があります. どれも私にとっては刺激的なものであります.また,毎週1,2回,キャンパスのいずれかのconference room で世界中の著名な学者による講演があり,学会に行かずとも勉強ができると実感しています.Dr. Chaplin はimmunologist(専門はT cell biology)でありながら,私の実験の進め方に対し非常に理解を示して下さいます.彼の指導方法は,それぞれの研究者による発想を最大限に尊重することです. Dr. Chaplin のもとに留学した日本人は私で3人目でありますが,personalityは非常に人間味およびユーモアに溢れ,かつ温厚で,話をしなくてもなぜか通じ合えるような感じすらいたします.アメリカに来て最も幸せに感じたことは,抽象的な表現ですが研究者として原点に戻れた気がすることです.実験できることの楽しさ,喜びを心から感じています.日本に帰りましたら薬理学の教育ならびに研究にこの経験を最大限に活かしたいと思っております. 京都薬大・薬理 奈邉健 UAB Dept. of Microbiology; 写真上:左から3人目がDr.
Chaplin,右端が筆者. |