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日本薬理学雑誌: 海外ラボ紹介 U of Cinci

University of Cincinnati, Department of Molecular
and Cellular Physiology

College of Medicine, Cincinnati, OH 45267-0576, USA.

私は現在University of Cincinnati, Department of Molecular and Cellular Physiology の R. J. Paul 博士の研究室に勤務しています。

シンシナティーはオハイオ州の南端、ケンタッキー州とインディアナ州の境界に位置しています。大学はダウンタウンの北側にあり、文化系・理学系のあるイーストキャンパスと幹線道路を挟んで反対側のウエストキャンパスに分かれています。

医療系の医学部、薬学部、Main Hospital、Children's Hospital、Veterans Hospital、Cardio-Vascular Center、Vonts Center (遺伝子・ガン研究)そして、我々の勤務する Medical Center はこのウエストキャンパスに集中しています。  

私たちの研究室、"Paul's Lab." では「平滑筋を中心とした収縮メカニズムの解明」という大きなテーマの中で、常時5ー10人の スタッフがそれぞれの研究を行っています。構成員としては Assistant Professor という存在が無く、全てのポスドクと大学院生が独自のテーマを持って互いに協力しながら研究を進めています。

教授である Paul 博士はやはり自分の研究を行う傍ら、ジョークを飛ばしながら頻繁にそれぞれの研究室を徘徊(?)し、スタッフの研究内容、進行具合、問題点・・・などを正確に掌握して行きます。それを基にそれぞれの研究や論文を上手にコーディネートしてゆく力量はただただ脱帽の感があります。

具体的な研究内容としては、Transgenic mice 由来の血管、気管、膀胱平滑筋などを用いた機能的評価と[Ca2+]i および pH の測定が中心となり、細胞内カルシウム貯蔵部位の Ca2+-ATPase やその Regulatory protein (phospholamban)、形質膜上の Na+/K+ ATPase、Na+-K+/2Cl--cotransporter などの欠損・高発現モデルが頻繁に使われています。

この他には、繊維芽細胞を用いた非筋収縮機構の解明および細胞骨格や微小管に関する検討、ブタ冠血管を用いたカルシウム感受性に関する検討などを行っています。これら多岐に渡るテーマは様々なことに興味を示すPaul 博士のキャラクターによるものなのか、多くのスタッフは常に複数の研究テーマを同時進行で進めています。

そのため、他の研究室や大学との共同研究が非常に盛んで、全米各地の研究者と頻繁にコンタクトを取り合いながら、サンプルや試薬、動物をやりとりして効率的に研究を進めています。場合によっては学会発表の要旨がHP上に掲載された時点で早々に問い合わせを受け、発表前にもかかわらず翌週には共同研究用のサンプルが送られてくるようなこともあります。・・・このように書いておりますと、非常にあわただしく研究に追われているように感じられますが「じっくり検討を重ねて将来的に高く評価されるような研究をしたい」というPaul 博士の考え方を反映して研究室内は比較的落ち着いた雰囲気です。

スタッフも年齢的に近い(教授以外は全て30歳前後)せいか仲間同士という感覚でアットホームな雰囲気です。

Physiology の Department 全体として特筆すべきは、公開講座やセミナーが頻繁に行われている点で、各分野の著名な研究者による最新の発表を気軽に聞き、誰でも討論に参加することができます。  

さてシンシナティーは、オハイオ川を中心として流通、経済の要所として栄えてきました。古くは石炭産業、現在は Procter & Gamble Co. (P&G)の本社・研究所や、General Electric Co. の航空機エンジン部門、HONDA-America 本社などを有する典型的なアメリカの中型商業都市といったところです。

ダウンタウンこそ高層ビルが林立しておりますが、観光で訪れるような派手なアトラクションは一切なく、その点ではいたって地味な街です。しかし、のんびりしていておおらかで人なつっこい人が多く、街で地図を持って立ち止まっているとすぐに声をかけてくれるようなところがあります。おかげで治安も非常に良く、夜間女性が一人で犬の散歩をしている光景もよく見かけますし、駐車中の車が窓を開けたままというのも珍しくありません。

気候の点では冬こそ寒さが厳しいですが降雪が少く、四季がはっきりしているため、「雪のない北海道」と言った感じです。私たちは大学の北 10 miles ほどのアパートメントに住んでいます。一応、市の環状高速道の内側なのですが、周りはほとんどが森とゴルフ場で自然がいっぱいです。

さすがに熊を見ることはありませんが、キツネ、タヌキ、ウサギはもちろんのこと自宅の玄関を開けたら大きな鹿が立っていたという経験もあるほど野生動物の宝庫でもあります。

毎年行われる「リタイア後に住んでみたい街ランキング」でシンシナティーが常に全米の上位に位置付けられるのも、実際に住んでみますと良く理解できます。最近は上記の企業に日本からの駐在員や派遣研究員が多いせいか、日本の製品や情報が入手しやすく物価も他の都市に比べて安いことから、私たちにとっては大変住みやすい街だと感じています。

 

 (野部 浩二)

http://www.med.uc.edu/physiology/

留学終了/現 昭和大学 薬学部 薬理学教室

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