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コレスポンデンス

「細胞内Ca測定法の有用性と間題点一工クオリンとindo-1シグナル」を読んで

名古屋市大・薬・薬品作用 今泉 祐治
yimaizum@phar.nagoya-cu.ac.jp

 遠藤政夫教授が心筋E-Cカップリング機構解明におけるCa指示薬としてのエクオリンとindo-1の有用性とその限界をコレスポンデンス(115, 361, 2000)に示された.Ca指示薬で測定ざれる遊離Ca濃度と機能的に重要なトロポニンC近傍でのCa濃度の関係が複雑であり,時として解離することや微妙な測定条件や病態により変化する可能性が有るため,その解析に細心の注意を払うべきであることはまさにご指摘の通りである.

またエクオリン俟とindo-lで得られたCa濃度情報について,それぞれのシグナルとCa濃度の関係を補正しても互いに異なる点の多いことはこれまでしぱしば指摘されてきたが,どちらが優れているかという問題ではなく,それぞれの短所を補い総合的に解析するために合わせて利用するに如くはないと思われる.

共焦点レーザー顕徴鏡を用いたCaスパークの測定などにより,細胞内局所Ca動態解析の重要性が明らかとなってきた.様々な特性のCa蛍光色素の開発と画像解析法の発達が相侯って全盛となり,エクオリンを用いたCaシグナル解析は,筋生理の分野では組織標本を用い収縮の同時測定を行う実験系(遠藤教授のご指摘の通り,それが極めて重要なのであるが)に比較的限られている.

しかしエクオリンを用いた細胞内局所Ca渡度解析が,循環薬理を含む薬理学分野において新たに展開される可能性を指摘してみたい. 1992年にRizzutoらがミトコンドリアのチトクロムCオキシダーゼのサブユニットにエクオリンタンパクを連結させる形でハイブリッドcDNAを作成し,培養したウシ血管内皮細胞に形質発現させ,ミトコンドリア内外膜間腔内のCaシグナルを測定することに成功した(1).この手法は培養細胞系で拡大利用ざれ,ミトコンドリア機能研究に新たな展開をもたらした.その一つはアポトーシス関連での機能,もう一つはより正常な細胞状態でのCa取り込み部位としての機能である(2).後者は主にインスリン分泌培養細胞やクロム親和性細胞等において検討ざれている.

ミトコンドリアの一部は小胞体フラグメントと空間的に極めて近い位置関係を持つ場合がある(3).IP3産生を介した小胞体からのCa遊離は近傍のミトコンドリア表面における局所Ca濃度を予想以上に上昇させるため,低Ca親和性ユニポーターを介した取り込み機構を充分機能させ得ると推測されている.このような生理的Ca取り込みはそのミトコンドリアの呼吸機能を活性化するとともに,exocytosisを引き起こすCa動態にも影響を与えると考えられている(4,5).

エクオリンタンパクを融合タンパクとして発現させその部位での局所Ca濃度を測定する手法は,ミトコンドリアの膜間腔(1)あるいは細胞質に接した外面(6)のCa濃度だけでなく,他の細胞内小器官内あるいは近傍の局所Ca濃度測定へと応用ざれた.これまでにCa感受性の異なる数種類のエクオリン(5)をゴルジ体内,核内,小胞体内及ぴ細胞質の特定のタンパクに融合させた形で発現させた例が報告されている(7,8).

現在までのところ,Ca蛍光色素と共焦点レーザー顕徴鏡を用いた場合と比べ,画像解析の空問分解能が低い.しかし特定の小器官に発現させていることから,高感度冷却CCDカメラによる観測を基にコンピューター上で鋭焦点化手法を併用して解析すれば,目的に応じた画像解析による細胞内局所Ca濃度測定が可能になってきたと考えて良い.上記の手法はエクオリンを培養細胞に発現させて得られた比較的特殊な実験系においてのみ使用可能であるが,アデノウイルスベクターを用い筋小胞体をターゲットとしてアポエクオリンをラット尾動脈組織の平滑筋に形質発現させた例も報告されている(9).

近い将来,エクオリンをジーンターゲティングにより特定のタンパクに融合させた形でマウスに発現ざせ,そのトランスジェニックマウスから組織あるいは細胞が得られるようになれば,特定の小器官内や近傍のCaシグナルを選択的に測定することも可能となるかもしれない.例えぱ筋小胞体リアノジン受容体近傍の局所Caシグナルと収縮を心筋組織から同時に得るというのは実現不可能だろうか(筆者が把握できていないだけで既に可能なのかもしれない).

Ca感受性蛍光タンパクCameleon(10)という好敵手は現れているものの,エクオリンがCa動態解析を中心とした薬理研究にとって,益々魅力的で有用なタンパクとなっていることは間違いないと考えている.

文献: 1. Rizzuto R et al: Nature 358,325-327 (1992) 2. Pinton P et a1: Bio Factors 8,243-253 (1998) 3. Rizzuto R et a1: Science 280,1763-1766 (1998) 4. Kennedy ED et a1: J Clin lnvest 98,2524-2538 (1996) 5. Montero M et a1: Nature Cell Bio1 2,57-61 (2000) 6. Brandenburger Y et a1: Biochem J 341,745-753 (1999) 7. Brini M et a1: Micros Res Tech 46, 380-389(1999) 8. Rovert V et al: J Biol Chem 273,30372-30378 (1998) 9. Rembold CM et a1: Cell Calcium 21, 69-79 (1997) 10. Miyawaki A et al: Nature 388, 882-887 (1997)

これは日薬理誌116巻2号より転載したものです。  

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