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コレスポンデンス

「綱胞内Ca河定法の有用性と間題点」(115, 361, 2000)を読んで

秋田大・医・薬理 飯島俊彦
tiijima@med.akita-u.ac.jp

 細胞内情報伝達機構においてCaの重要性が指摘されて以来,細胞内Ca濃度([Ca]i)測定のためにイオン感受性徴小電極やカルシウム感受性蛍光色素等を用いて多くの努力が費やされてきた.遠藤政夫教授の指摘(115, 361, 2000)のごとく,1987年エクオリンの結果が報告され,これで細胞内Caの生理的役割は全て明らかになるのではとの期待が持たれた.

さらにその後のCa感受性蛍光色素の開発・進歩は目覚ましいものがあり,単離細胞内の極めて徴細な変化をも捉えられるまでに発展して来た.Ca感受性蛍光色素の現状はMolecular Probe社のカタログHandbook of Fluorescent Probe and Research Chemicals (1999,CD-ROM)を見れぱ一目瞭然である.しかし,それぞれの測定法には固有の間題点もあり,現在に到っても細胞内Caの正確な挙動が全て明らかにざれているわけではない.

そのような現状をふまえて[Ca]i測定による機能解析に多くの経験と知識を持つ遠藤教授が,コレスポンデンスにおいて指摘したのは,それぞれの測定手法の不確定要素を充分に理解し「特有の欠点を回避しつつ・・・・病態による修飾を解明し,ざらには新しい治療法の開発に結ぴつけていくことか循環薬理学における研究の重要な目標」であるとの,極めて慎重かつ前向きな姿勢を示す意見であったと理解している.引き続いて工藤佳久・今泉祐治・唐木英明教授らが多くの研究経験から,新しい蛍光色素やキメラエクオリンさらにはBFP-CaM-GFPカメレオン等の研究手法の紹介も含め,[Ca]i測定の可能性や将来性について発言されている.

ここで経験も少ない私から意見を付け加えることは蛇足のそしりを免れないが,編集者からの求めに応じ,細胞内Ca制御機構における細胞構造(骨格)の重要性について私見を加えてみたい. さて,Ca作用(反応)部位での遊離Ca濃度が,測定した[Ca]iと平衡状態にあるとの仮定のもとに,さらには細胞質内にCaが均一に流入・遊離・拡散すると仮定して生理機能が解析されており,それぞれの測定手法の不確定要素をbreake-throughする新たな研究手法は未だ開発されていない.

遊離Caは細胞質内を単純に拡散しているのではなく,細胞内小器官あるいは特別な構造(コンパートメント)を介して移動拡散している可能性は極めて高い.唐木教授の「画像解析装置の解像度が細胞内小器官を識別できる程度まで改良ざれることと,Caの量だけでなく,その動きを経時的に追いかける新しい方法の開発が必要である」との指摘は極めて重要である.血管平滑筋細胞ではグローバルな[Ca]i増加は収縮を惹起するが,局所のリアノジン受容体からのCa release(calcium sparks)はBKチャネルを活性化し,膜電位を過分極することによって収縮を抑制しているBKチャネルのβ1サブユニットがmicrodomainで果たしている役割を明らかにした最近の報告(Nature 407, 870-876, 2000)は極めて興味深いが,microdomaineの構造を明らかにしてはいない.

Caチャネルから流入したCaはsparksあるいはCICRを引き起こすだけなのだろうか?非興者性細胞も含め,容量性Ca流入が直接貯蔵部位をre-fillしているとの考えも否定はされていない.最近のmicrodomainsの総説(Cell Calcium 26, 181-192,1999)でも機能的観点から構遣の宣要性を指摘してはいるが,解決の糸口を示唆しているに過ぎない.そのような中で,細胞骨格が[Ca]i制御に重要な働きをしているとの報告(Cell Calcium 22,413-420, 1997)は注目に値する.

さらに観点を変えて2000年1月米国ニユーメキシコ州サンタフェにて開催ざれた"Nonlinear Dynamics of Calcium in Living Organisms" (http:// cnls.lanl.gov/Conferences/)での話題は極めて示唆に富むものである.「Ca release sites周囲のmicrodomainsの役割,Ca release sitesのinter-release-site distanceとCa wave,G-protein mediatedCa oscillations,そして細胞間情報伝違におけるgap junchonal coupling等で,実際の現象と論理モデルとをつきあわせ,徴細な限局した現象から巨視的な不均一性を続合して理解できるsubcellular signaling domains」を明らかにしようと試みられており,細胞内Caの生理機構のみならず,細胞内Ca制御機構研究の新しい展開への道筋を示しているように思われる.

これは日薬理誌116巻4号より転載したものです。

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