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関東部会 市民公開講座抄録
2004年6月6日(日)

1. 糖尿病が招く動脈硬化と心臓病

静岡県立総合病院長 神原 啓文

近年、わが国では生活習慣病が著しく増加してきております。その原因は、食事や生活内容の変化によるカロリー消費のアンバランスが大きく影響しているのです。動脈硬化の頻度は、約20年遅れて米国を追いかけている状況です。今のうちに手を打つ必要があります。とくに糖尿病は増加の一途をたどっております。糖尿病は動脈硬化の発症を促すと共に、その合併症を増やし、わが国における死亡原因の重要な基盤になっています。

糖尿病のある人では、心臓に血液を供給するいわゆる冠動脈に動脈硬化が起こりやすく、その結果、心臓の酸素や養分が不足して、心筋梗塞とか狭心症という病気になりやすくなります。その予防としては、「冠動脈硬化の危険因子」と呼ばれるものを一つでも減らすことですが、それだけで不十分な場合は、種々の薬を用いることが必要になります。

何をしたらよいのか、何はすべきでないのか、どんな薬を使うのかお話します。

2. 糖尿病が招く神経・脳血管の病気

浜松医科大学脳神経外科助教授 西澤 茂

糖尿病は高血圧とならんで、脳の病気、特に脳梗塞をひきおこす強い危険因子の一つです。生活様式が西欧型に変化するにつれて、日本人の食生活も西欧型になり、今や成人の一人、あるいはそれ以上の人が糖尿病にかかっていると言われています。糖尿病は、脳血管の特に細い動脈に強い動脈硬化を引き起こし、

本人が知らないうちにも、いわゆる「隠れ脳梗塞(脳の細い血管の閉塞)」が発生しています。これがどんどん進行すると、「脳血管性痴呆」になったり、将来にわたって障害を残す、「半身不随」の状態に陥ったりします。このような大きな体の障害を引き起こす前に、糖尿病をしっかり管理することで、健やかな人生を送ることができます。最近は、磁石を用いたMRI という検査が発達して、早期から脳に起こっている血管の変化をとらえることができるようになり、治療法も格段に進歩してきました。脳梗塞が起こった早期に治療すれば障害を残すことなく、あるいは障害を極めて軽度に押さえて社会復帰することも可能になってきました。しかし、やはり糖尿病によって脳の病気にかかる前にその予防をしっかり行うことが最も重要です。最近の新しい診断方法、治療法も含めて、糖尿病が招く神経・脳血管の病気について解説したいと思います。


3. 糖尿病性腎症の診断と対策

静岡県立大学薬学部教授 小野 孝彦

腎臓病の治療の大きな課題は、末期腎不全に進行するのをいかにして防ぐかという点にあります。新規の透析導入となった患者さんの内訳は、糖尿病性腎症が年々増加を続けているため、数年前から慢性糸球体腎炎を抜いて第1位の原因となり、2002年には年間新たに約1万3千人が透析導入に至っています。そこで糖尿病性腎症の進行をくい止めることが急務ですが、糖尿病性腎症の特徴の1つとして臨床症状が出る頃にはすでに中期から末期となっていることが多く、早期の診断と治療をいかにするかということが重要です。この際、通常の尿蛋白測定法よりも鋭敏な尿中微量アルブミンの測定が保険適用もあって有用です。治療の基本は血糖と血圧の管理、そして蛋白質の過剰な摂りすぎを控えることにありますが、血圧に関する腎症の要因として、糖尿病では腎臓の糸球体に内圧がかかりやすく過剰な濾過により悪化を招くことが考えられています。そこで充分に血圧を下げることと(最近のガイドラインでは130/80 mmHg 未満)、種類としてはレニンーアンジオテンシン系に作用する降圧剤が腎臓の保護につながるものと期待されています。


4. 現在使われている糖尿病治療薬

呉服町土屋内科院長 (前静岡市立静岡病院市民健康センター科長)土屋 厚

糖尿病は、インスリンの作用不足で高血糖を中心とした代謝障害から各種の合併症を引き起こしてくる疾患である。現在糖尿病を消し去る有効な方法はなく、糖尿病の治療は血糖を管理し、合併症を予防することにある。糖尿病患者さんは、基本である食事・運動療法をしっかり行った上で、必要ならば薬を使うことになる。糖尿病治療薬は、しょくじ・運動などの自己管理を十分に行わないと効果が上がらないという点で他の疾患の薬とは大きく異なる。

現在使われている糖尿病治療薬は、内服で使用する経口血糖降下薬と注射で使用するインスリンに大別される。経口薬はここ数年の間にいろいろな作用機序の薬品が発売され、糖尿病の各種病状に合わせて薬が使用できるようになってきた。インスリンも効果の持続時間や注射のタイミングを考えて使い分けられるものが開発され、患者さんのQOL(生活の質)を改善できるようになってきた。糖尿病の治療ではこれらをふまえて薬が選択されている。

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