本原稿は、日本薬理学雑誌に掲載された記事を転載したものです。
三量体Gタンパク質G12:ファミリーの機能 |
三量体Gタンパク質は,ホルモンや神経伝達物質などの受容体からの情報を細胞内へ伝達する分子スイッチとして機能している.この三量体Gタンパク質はα,βおよぴγの3つのサブユニットより成り,αサブユニットの遺伝子配列や機能に基づいて,現在Gs,Gi,GqおよぴG12の4つのグループに分類されて:いる.Gsファミリーはアデニル酸シクラーゼの活性化,Giはその抑制,Gqはホスファチジルイノシトールニリン酸特異的ホスホリパーゼ゙Cの活性化と,3つのGタンパク質ファミリ一についてはその中心的な役割が明らかにされているが,G12ファミリ一については今までその機能に不明な点が多かった. G12ファミリーはマウス脳のcDNAライブラリ一からのクローニングにより見出されたGタンパク質で,百日咳毒素に非感受性であり,ソノファミリーノ中にはG12とG13がある.G12とG13は,生体内の広範な組織に分布していることから,生理的にも重要なGタンパク質であることが推定されていた. G12やG13がどのような受容体と共役しているかは,生理的な意義を考える上で重要である.・G12およぴG13が血小板に多く発現していることから,血小板の凝集を引き起こす代表的なアゴニストであるトロンビンとトロンボキサンA2についてはじめに調べられた. その結果,両受容体がG12あるいはG13と共役することが示ざれた(Offermanns S et al; Proc Natl Acad Sci USA 91, 504-508, 1994).・それ以外の受容体としては,ブラジキニンB2,リゾホスファチジン酸(LPA),エンドセリンETA,セロトニン5HT2c受容体などが知られており,それらはGqファミリーのGタンパク質とも共役する.最近,受容体の種類によってそのG12とG13との共役に特異性が見られることも報告ざれている(Gohla A et al: J Biol Chem 274, 17901-17907, 1999). さて,このG12あるいはG13の下流にはどのような細胞応答があるのであろうか? G12あるいはG13の活性化によって細胞の増殖,分化,形態変化あるいは形質転換などがもたらざれることが報告ざれでいる. さらに,Na+/H+ exchangerの活性化,ストレスファイバーの形成,血小板の形態変化(shape change),アポトーシス, 電位依存性Ca2+チャネルの抑制, Rhoの活性化, Rasの活性化, Racの活性化, ホスホリパーゼDの活性化, mitogen-activated protein kinase (MAPK)ファミリーのうちextracellular signal-regulated kinase (ERK)およびc-Jun N-terminal kinase (JNK)の活性化などが示されている. G12やG13がどのようにして細胞応答に至るシグナルを制御するかを明らかにしていくためには,その直接の作用分子の同定が不可欠であるが,それらについていいくつか報告ざれた.すなわち,G12についてはBruton's tyrosine kinase (Btk)およびGTPase activating protein for Ras (RasGAP)が示ざれている(Jiang Y et al: Nature 395, 808-813, 1998).BtkはJNK/c-Junカスケードを制御していると考えられており,細胞増殖やBcl-2のリン酸化を介したアポトーシスのシグナルを説明できると恩われる. 一方,RasGAPはRasの持つGTPase活性を促進するタンパク質であり,RasのGTP代謝を促進する.Rasの活性化はERKのカスケードの活性化に繋がるものと考えられる.また,G13についてはp115 guanine nucleotide exchange factor for Rho (p115RhoGEF)が見出されている(Hart M et al: Science 280, 2112-2114, 1998).これは,RhoのGDP/GTP交換を促進してその活性化をもたらすことから,Rhoの下流にあると考えられているストレスファイバーの形成,血小板の形態変化あるいは,ホスホリパーゼDの活性化を説明できるものと考えられる. この経路は,三量体Gタンパク質のG12ファミリーと低分子量Gタンパク質であるRhoを結ぶ伝達系として極めて興味深い.またG12とG13が異なった機能を持つことも報告されている. 例えば,Na+/H/ exchangerを活性化する場合,G12ではプロテインキナーゼC依存的であり,G13では非依存的である(Dhanasekaran N et al: J Biol Chem 269, 11802-11806, 1994).さらに,Rhoを活性化する場合,・G13はEGFレセプタ一のチロシンリン酸化を介するが,G12の場合にはそれを介さないことが報告されている(Gohld Aet:a上J Biol Chem 273,4653-4659,1998). 以上のように,G12およぴG13の機能が少しずつ解明されつつあるが,その刺激によってセカンドメッセンジャー生成を引き起こす酵素の活性化が起こるという報告はなく,G12ファミリ一の情報伝達系は他の三量体Gタンパク質ファミリーの作用機構と相違する.今後,他の情報伝達系とのクロストークの解明などを含めて,G12ファミリーGタンパク質の研究の進展が期待される. |
東北大・院・薬・細胞情報・中畑則道
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キーワード; G12, G13, Rho |