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本原稿は、日本薬理学雑誌に掲載された記事を転載したものです。

老化研究への新しいアプローチ
:ヒト老化モデルマウス,K1otho変異マウス

 近年,挿入突然変異によって早期老化症状を呈するマウス系統(Klotho変異マウス)が樹立され,多彩な老化症状が単一遺伝子の欠損によって発症し,原因遺伝子(Klotho)とそのコードするタンパク質(Klotho)が同定ざれた(Nature390,45-51,1997; J Mol Med 78, 389-394, 2000; Proc Natl Acad Sci USA 97,12407-12408,2000).

この変異マウスは劣性遺伝であり,ホモマウスは椎乳期の生後3週目までは野生型と同様に発育するが,3週目を超えると発育が止まり(成長障害),6週齢の自発活性は野生型の50%程度に低下し,パーキンソン病様の歩行が認められる.平均寿命は60日で,以下に列挙するような顕著な老化症状を呈する.

①中膜の石灰化,内膜の肥厚を特徴とする動脈硬化,②骨密度の低下,③小脳のブルキンエ細胞の脱落,④卵巣,子官,精巣の顕著な萎縮,⑥胸線の顕著な萎縮,⑥胃壁,皮膚,気管,心臓の弁など軟部組繊の石灰化,⑦皮膚の萎縮,毛根の減少,皮下脂肪の消失,⑧脳下垂体の機能異常,などを呈する.これらの症状はヒトの老化症状にきわめて類似しており,ヒト早老症の診断基華(Brith Defects 14, 5-39, 1978)に合致するものである.また,クレアチニンやアルブミン値などは正常であることから,単なる内分泌障害,カルシウム代謝異常,腎不全や栄養障害などではないこと,離乳期までは正常に発育することから,発生異常でないことも確認されており,全体として早期老化マウスと判断ざれている.

Klotho mRNAは約5.3kbで,N末端にシグナル配列,C未端に膜貫通ドメイン構遣を持つ1,014個のアミノ酸からなる新規の1型膜タンパク質をコードしている.細胞外の配列は,βグルコシダーゼに相同性を持つ2つのドメインより構成ざれており,N末端側のドメインはマウスKL(mKL)1,C未端側のドメインはmKL2と名づけられている.ノーザンブロット解析では,Klotho mRNAの発現は腎臓で強く見られ,脳には弱い発現が見られ,RT-PCRでは,卵巣や楕巣,膵繊,勝胱,骨格筋に発現がみられるマウスcDNAをブローブとしてヒトのcDNAライブラリーより相同遺伝子を分離し,その構造を決定した実験において,同様の1型膜タンパク質をコードするmRNA[ヒトKL(hKL)1とhKL2から構成]とスプライシングの制御により,タンパク中央にストッブが入るmRNA,すなわち分泌型タンパク質をコードするmRNA(hKLのみ含む)が同定された(FEBS Lett 424, 66-10, 1998; Biochem Biophys Res Commun 242, 626-630, 1998).マウスにも少量ではあるが,分泌型が存在する.

またhKLは1,012個のアミノ酸から構成されており,mKLと86%の相同性をもつ(Nature 390, 45-51, 1997; Nature 390,18-19,1997).一方,外来のklotho cDNAを発現するトランスジェニックマウスを作製し,突然変異マウスと掛け合わせ,レスキューできるかどうかを解析した研究において,klotho遺伝子欠損マウスであっても外来のKlothoの発現があれぱ変異表現型が回復することが確認されている.この結果は,klotho遺伝子が原困遺伝子であること,klotho遺伝子の変異により上述したすべての変異症状がもたらされることを示している.klotho遺伝子欠損マウスの血管反応性を調べた研究において(Biochem Biophys Res Commun 248, 324-329,1998; Cell Mol Life Sci 57, 738-746, 2000),ホモマウスの大動脈は石灰化が著明であり,ノルエピネフィリンに対する収縮反応,アセチルコリン(ACh)に対する拡張反応はいずれも消失していたため,血管反応性は解析できなかった.

しかし,AChに対する一酸化窒素を介する血管拡張反応は,ヘテロマウスでは野生型に比べ明らかに低下していた.さらに,ヘテロマウスと野生型マウスのパラビオーシスを作製し,AChに対する内皮依存性血管拡張反応を調べた実験では野生型とその反応が同等であったことから,Klothoタンパクが血管保護作用を有する液性因子であることが確認ざれている.一方,血管内皮機能障害が報告されている各種病態ラット(自然発症高血圧ラット,DOCA食塩高血庄ラット,5/6腎摘腎不全ラット,高血圧症・糖尿病・高脂血症・肥満を合併するOtsuka Long-Evans Tokushima Fattyラット)におけるklotho mRNAの発現を調ぺた研究において,いずれの病態ラットの腎臓においてもklotho mRNAの発現は,sham群に比べ著しく低下しており(Biochem Biophys Res Commun 249,865-871, 1998; Biochem Biophys Res Commun 276, 767-772, 2000),klotho遺伝子が高血庄の進展に重要な役割を果たしていることが示唆されている.

以上のように,この挿入突然変異マウスは,世界ではじめて得られた単一遺伝子の変異により顕著な早期老化を示すマウスであり,加齢に伴って発症する多くの疾患の成り立ちを解析するための重要な疾患モデルになることが期待され,Klothoの分子機能の解明と多彩な老化症状の発症機序の解明が待たれる.

名古屋大・医・病院薬剤  野田幸裕、永井拓、鍋島俊隆  
e-mail: y-noda@med.nagoya-u.ac.jp
キーワード:早期老化マウス,Klotho変異マウス,
klotho遺伝子

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