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本原稿は、日本薬理学雑誌に掲載された記事を転載したものです。

炎症時のPGE2産生に関わる誘導型酵素COX-2
とPGE2合成酵素及びそれらの共役

 炎症の局所ではプロスタグランジン(PGs)が多量に産生され炎症の進展に寄与しているが,特に炎症反応の時間経過に従って,産生されるPGsの種類が異なることが見い出されている.PGsの産生系は体内の多くの組織に備わっており,膜の脂質よりホスホリパーゼの作用によって切り出されたアラキドン酸が,シクロオキシゲナーゼ(COX)の作用を受けて,PGH2となり,さらに各PG合成酵素の作用によって,それぞれのPGs(PGI2,PGE2,PGD2,PGF2a,TXA2など)へ変換される.

それぞれのPGsは異なった生理活性を示す上に,組織・器官特異的に産生される.例えば,血管壁では血小板凝集抑制作用をもつPGI2の産生が主であり,血小板では血小板自身の凝集を促進するトロンボキサンA2が産生されると報告されてきた.近年恒常型のシクロオキシゲナーゼ‐1(COX‐1)に対して,炎症時や感染などの刺激によって誘導されるCOX‐2が発見されると,炎症時のPGs産生の調節には誘導型のCOX‐2が大きな働きをしていると考えられるようになった.

確かに,ラット・カラゲニン胸膜炎の3時間以降の胸腔滲出液中やリポポリサッカライド(LPS)処理マウス腹腔細胞中にはCOX‐2が発現されており,PGs産生量も増加が認められている.しかし同じ組織で,ある時期にはPGI2が産生され,別の時期にはPGE2が多量に産生されるようになるのは何故か不明であった.この疑問に対し,これらのPGsの産生調節にはアラキドン酸遊離から各PGs産生への酵素経路の共役が重要であるという論文が報告され,またCOX‐2以外の誘導型酵素としてPGE2合成酵素(PGES)が報告されたので紹介する.  

松本,奈良場らはラットの腹腔マクロファージをin vitroでLPSと培養し,PGD2,TXB2は変化しないがPGE2量だけが時間と共に12時間後まで増加し24時間ではプラトーとなること,COX‐2のタンパク発現量も24時間まで増加していることを見い出した.更に,各時間の細胞ライゼートを用いてPGE2 PGES活性をPGH2からPGE2への変換量として調べると,PGES活性はLPSとの培養で,時間とともに12時間後まで増加し,24時間後では減少していた.

従ってPGE2の産生制御に重要な酵素として,COX‐2の他に,PGESが誘導されて働いていることが明らかとなった(Matsumoto H, et al: Biochem Biophys Res Commun 230, 110‐114, 1997; Naraba H, et al: J Immunol 160, 2974‐2982, 1998).一方,Sammuelssonの共同研究者らが,ヒトの誘導型PGESの遺伝子をクローニングし,グルタチオン依存性膜存在酵素として発表した(Jakobsson P‐J, et al: Proc Natl Acad Sci USA 96, 7220‐7225, 1999).

日本では,谷岡らが恒常型のPGESを単離クローニングに成功した(Tanioka T, et al: Biol Chem 275, 32775‐32782, 2000).奈良場らはヒトの配列を基に,ラットおよびマウスの誘導型PGESを得,村上,工藤らはこれらのPGESを細胞質型,恒常型のsPGESとミクロソーム型,誘導型のmPGESと命名し,HEK293に導入し,活性,性質を調べた.COX‐1またはCOX‐2とsPGESまたはmPGESの2段階の酵素を強制発現させたHEK293細胞を用いてPGE2産生量を調べると,それぞれ恒常型の酵素COX‐1とsPGESの組み合わせが,また誘導型酵素のCOX‐2と誘導型のmPGESの組み合わせが,他の組み合わせよりも多くのPGE2を産生することが示された.

従って,恒常的にはCOX‐1とsPGESの共役,誘導的にはCOX‐2とmPGESの共役が存在し,炎症のある時期には特に後者が働き大量のPGE2産生をひき起こしている可能性が示された(Murakami M, et al: J Biol Chem 275, 32783‐32792, 2000).この発見は,抗炎症薬やPGs産生調節薬の開発ターゲットの一つの可能性を示しているものと考えられる. 

北里研究所 大石幸子,
e‐mail: oh‐ishi@kitasato.or.jp
キーワード:プロスタグランジンE2,プロスタグランジンE合成酵素,
シクロオキシゲナーゼ‐2

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