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本原稿は、日本薬理学雑誌に掲載された記事を転載したものです。

タンパク尿発生に関与する分子群の同定

 腎臓は水・電解質代謝および血液の浄化に中心的な役割を果たす臓器である.尿生成の第一ステップは,血液の糸球体毛細血管からの限外濾過である.限外濾過の過程では水・電解質および小分子は糸球体毛細血管壁を自由に通過するが,タンパクなどの大分子に対してはバリアーを形成している.糸球体障害(バリアー不全)によってタンパク尿や血尿といった病態が生じる.

腎臓機能が廃絶する腎不全は糸球体機能の廃絶と同義といってよい.このように,糸球体限外濾過は腎の生理機能および病態に密接に関連し,その機能に関わる分子群の同定は血液浄化システムを理解することにとどまらず,ヒト腎疾患発症メカニズムの解明および治療薬の開発にもつながる.  限外濾過がなされる糸球体毛細血管は,(1)糸球体内皮細胞,(2)基底膜,(3)糸球体上皮細胞の3層より構成されている.これら3つの因子の中で,タンパク濾過のバリアーとしてはこれまで基底膜の重要性が強調されてきた.

ところがタンパク尿を遺伝的に発生する家系の連鎖解析により同定された3つの分子(nephrin,α‐actinin‐4,podocin)および,動物モデルによりタンパク尿発症との関連が判明したCD2AP(CD2‐associated protein)は全て糸球体上皮細胞に発現・関与していた.  Nephrinは,出生直後から尿中に多量のタンパクが失われる先天性ネフローゼ症候群の責任分子として同定された(Mol Cell 1(4), 575‐582, 1998).Nephrinは免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜貫通型接着因子であり,糸球体上皮細胞間をつなぐslit membraneに局在している.

Tryggvasonらは糸球体上皮細胞に存在するnephrin分子の細胞外領域同士が逆向きに結合し,slit membraneを構成するモデルを提唱している(J Am Soc Nephrol 10, 2440‐2445, 1999).この発見により,slit membraneが限外濾過膜の最も重要な一部を成していることが明らかにされた.CD2APはT細胞と抗原提示細胞との細胞間接着を安定化させている分子であるが,CD2APノックアウトマウスを作成すると,タンパク尿を呈し腎不全になることが示された(Science 286, 312‐315, 1999).

CD2APはnephrinの細胞質内領域と相互作用をすると考えられており,nephrinを細胞骨格にanchorさせるのではないかと推測されている.CD2AP欠損マウスの腎組織像はヒトにおける特発性ネフローゼ症候群のそれに類似し,その病因を考える上で重要視されている.α‐actinin‐4(Nat Genet 24, 251‐256, 2000),podocin(Nat Genet 24, 349‐354, 2000)の2つの分子は,遺伝的にタンパク尿を発症する家族性巣状糸球体硬化症の責任遺伝子として同定された.

α‐actinin‐4は糸球体上皮細胞の細胞骨格を構成するアクチンfilamentをクロスリンクし,さらにアクチン細胞骨格を細胞膜に連結させる役割を担っていると考えられている.患者で同定された変異を導入したα‐actinin‐4は,wild‐typeのα‐actinin‐4に比べ,F‐actinと有意に高い結合能を示すことが示された.変異α‐actinin‐4により糸球体上皮細胞足突起のアクチンmicrofilamentの正常なassembly,dissemblyが妨げられて糸球体の構造変化をきたし,FSGSを発症するメカニズムが考えられる.  

podocinは1カ所膜結合領域を有する約42 kDaの膜タンパクで糸球体上皮細胞に発現するが,細胞内局在および機能については不明である.podocinはヒトstomatinに47%,C. elegansのMEC‐2に44%のidentityを有しており,これらの分子がともに他の膜タンパク(イオンチャネル)および細胞骨格との結合,あるいは,これらの分子を連結する機能を持つと考えられることから,podocinも糸球体上皮細胞において同様な機能を有していると推定される.

 このように,つい最近まではブラックボックスに近かったタンパク尿発症に関連する分子が次々に同定された.こうした分子の全てが糸球体上皮細胞の構成分子であるという事実は,タンパク尿の発症メカニズムを考える上で一つのパラダイムシフトと思われる.今後こうした分子が詳細に解析され,タンパク尿および腎機能悪化の進展を阻止する薬物の開発がなされることが期待される

東京大・医・附属病院分院・小児科 関根孝司
e‐mail: sekinet‐tky@umin.ac.jp
キーワード:タンパク尿,nephrin,α‐actinin

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