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本原稿は、日本薬理学雑誌に掲載された記事を転載したものです。

神経伝達物質トランスポーターの結合タンパク質

 神経伝達物質受容体(グルタミン酸受容体,GABA受容体等)は,その結合タンパク質とともに複合体を形成することが明らかになってきている.これらの結合タンパク質は,1)受容体をアクチン細胞骨格と結合させ,細胞膜で受容体を安定化させる.2)受容体の発現をシナプス肥厚部へ誘導する.3)受容体のclusteringを引き起こす.等の役割を持ち,シナプス伝達の効率化に寄与しているものと考えられる.一方,神経伝達の終了を担うトランスポーターの結合タンパク質は不明であったが,最近,グルタミン酸トランスポーターとモノアミントランスポーターの結合タンパク質がいずれも酵母two‐hybrid screening systemを用いて相次いで報告されている.

グルタミン酸トランスポーターの結合タンパク質

 グルタミン酸トランスポーターは現在までに,5種類がクローニングされている(Strock et al: Proc Natl Acad Sci 89, 10955‐10959, 1992; Kanai et al: Nature 360, 467‐471, 1992; Pines et al: Nature 360, 464‐467, 1992; Fairman et al: Nature 375, 599‐603, 1995; Arriza et al: Proc Natl Acad Sci 94, 4155‐4160, 1997).

この中でEAAC1(excitatory amino‐acid carrier 1,別名EAAT3)は,主にニューロンに存在するグルタミン酸トランスポーターであると考えられている.Rothsteinらのグループは,このEAAC1のC末端側の87アミノ酸に結合するタンパク質をコードするラットcDNAを単離しGTRAP3‐18(glutamate transporter EAAC1‐associated protein)と命名した(Lin et al: Nature 410, 84‐88, 2001).

これは,既にヒトでクローニングされていたJWAと言われるビタミンA反応性遺伝子と相同で,188アミノ酸からなる推定分子量22 kDaのタンパク質であった.GTRAP3‐18は,脳内では,EAAC1の発現部位に一致した発現パターンを示したが,神経系以外の臓器にもほぼ均一に発現していた.EAAC1とGTRAP3‐18を培養細胞に共発現させ,グルタミン酸の取り込みを解析すると,GTRAP3‐18は,グルタミン酸に対するaffinityを減少させることでEAAC1の取り込みを抑制することが解った.

また,アンチセンスオリゴを導入し,内在性に発現するGTRAP3‐18をノックダウンさせるとEAAC1を介するグルタミン酸取り込みが上昇することから,GTRAP3‐18は,恒常的にEAAC1を抑制的に制御する因子であると推定された.同時に彼らは主に小脳ニューロンに発現するグルタミン酸トランスポーターであるEAAT4のC末端に結合するタンパク質を2種類同定し,GTRAP41,GTRAP48(glutamate transporter‐4‐associated protein 41 and 48)と命名した(Jackson et al: Nature 410, 89‐93, 2001).

GTRAP41は2388アミノ酸をコードする推定分子量270 kDaのタンパク質で,N末端側から2カ所のアクチン結合ドメイン,17回繰り返しのspectrin repeat,PHドメインを持つ.GTRAP48は,1527アミノ酸からなる推定分子量169 kDaのタンパク質あった.GTRAP41,GTRAP48はともに脳に強く発現しており,脳内では,EAAT4の発現がみられる小脳に多く発現している.GTRAP48は,Rho GEF(Rho guanine nucleotide exchange factor)との相同性がみられたことから(Hart et al: J Biol Chem 271, 25452‐25458, 1996),GEFとしての活性を持っているかを検討したところ,Rho特異的にGTP結合能を上昇させることが解り,GTRAP48は,Rho GEFとして生体内で働いていることが予想された.このことは,EAAT4の下流でRhoを介するシグナル伝達が存在する可能性を示唆している.

また,GTRAP41,GTRAP48は,EAAT4のグルタミン酸取り込み活性を最大取り込み速度を上昇させることで増強する.GTRAP41,GTRAP48を強制発現させるとEAAT4のタンパク量が増加することから,GTRAP41,GTRAP48は,EAAT4の安定化に寄与していることが予想された.特に,GTRAP41は,アクチン結合タンパク質であると考えられるので,EATT4を細胞膜に固定し安定化させ,EAAT4の分解を阻害する働きを持つのかもしれない.

モノアミントランスポーターの結合タンパク質

 モノアミントランスポーターには,ドパミントランスポーター(DAT),ノルアドレナリントランスポーター(NET),セロトニントランスポーター(SET)が含まれる.この中で,DATとNETのC末端に結合するタンパク質としてPICK1(protein interacting with C‐kinase 1)が同定された(Torres et al: Neuron 30, 121‐134, 2001).PICK1は,αPKC結合タンパク質として同定され(Staudinger et al: J Cell Biol 128, 263‐271, 1995),PDZドメインを有し,このPDZドメインを介してnon‐NMDAグルタミン酸受容体(GluR2)や代謝型グルタミン酸受容体(mGluR7)と結合し,clusterを形成することが明らかになり注目されている(Xia et al: Neuron 22, 179‐187, 1999, Dev et al: J Neurosci 20, 7252‐7257, 2000).

PDZドメインが結合するコンセンサスモチーフとして,クラスIモチーフ(S/T‐X‐V/I)とクラスIIモチーフ(φ‐X‐φ, φは疎水性アミノ酸)が知られているが,DAT,NETに対して,PICK1は,クラスIIモチーフを介して結合する.PICK1をDAT,NETとともに培養細胞で発現させると,DAT,NETは,clusteringを起こし,細胞膜に存在する機能的なトランスポーターが増加し,モノアミンの取り込み活性は上昇する.また,神経細胞においてPICK1とDATは,その局在が一致することが明らかになった.PICK1は,αPKCの結合タンパク質であり基質でもあるので,モノアミントランスポーターのリン酸化による制御にどのように関わっているかが今後興味を引く.

神戸大・バイオシグナル研・分子薬理分野 酒井規雄
e‐mail: norios@kobe‐u.ac.jp

キーワード:グルタミン酸トランスポーター,モノアミントランスポーター,
結合タンパク質

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