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本原稿は、日本薬理学雑誌に掲載された記事を転載したものです。

喘息におけるInterleukin 12
とInterleukin 13

 IL-12は,いわゆるTH2免疫応答を抑制するサイトカインとして重要であり,IgE レベルの上昇や好酸球増多を抑制する(J Allergy Clin Immunol 107, 9-18, 2001).動物実験ではIL-12を投与するタイミングがIL-12の作用と関連することも示されている.すなわち,感作前にIL-12を投与するとTH2サイトカインの産生は抑制され,感作後のIgE 産生が抑制される.この作用はinterferon-γ(IFN-γ)を介している.

一方,感作動物にIL-12を投与後に抗原チャレンジを行うと,好酸球の増多が抑制されるが,これはIFN-γに依存しない.Nutke et al.(J Immunol167,1039-1046,2001)は,ヒト好酸球のIL-12受容体発現がPMA でアップレギュレートされ,IL-12は好酸球のアポトーシスを誘導することを示した.このIL-12の作用をIL-5が抑制したことから,IL-12とIL-5は機能的に拮抗すると考えられる.IL-12による好酸球アポトーシスの細胞内情報伝達やIL-5との相互作用の詳細については今後の検討課題である.喘息患者を対象とした研究で,IL-12の産生低下,IL-12受容体サブユニットのIL-12Rβ2の遺伝子発現低下,IL-12Rβ2の変異による受容体の親和性低下などが,喘息に関与することを示唆する報告も多く,ヒトの病態にIL-12が関与することが示唆されている.

これらの研究や動物実験の結果を受けて,喘息患者にIL-12を4週間にわたって皮下投与した研究(Lancet 356, 2149-2153, 2000)によると,喀痰中・血中の好酸球数は減少したが,気道過敏症や喘息の遅発相は必ずしも改善しなかった.IL-12が種々な副作用を併発したことから,IL-12を喘息治療に使用することには否定的な見方もある(J Allergy Clin Immunol108, S72-76, 2001).喘息というフェノタイプにおいて,IL-12の産生低下以外に,受容体タンパクの発現低下や親和性の変化,IL-12以外のサイトカインの変化も関与し得ることから,IL-12の補充療法だけでは不十分なのであろう.一方,IL-12と同じ染色体上に存在し,IL-12と逆の作用を持つサイトカインの一つがIL-13である.IL-13はIL-4と共通点が多い.

いずれもchromosome 5q31のIL-4,IL-3,IL-5,IL-9,GM-CSF をコードするクラスターに存在し,特にIL-4とIL-13の遺伝子は近接している.IL-13受容体はIL-4R_とIL-13R_1の2つのサブユニットから構成されるが,IL-4R_はIL-13とIL-4の受容体に共通し,両者の生物活性も類似する.すなわち,IgE 産生調節や種々の接着因子の発現誘導など,いわゆるアレルギー素因に関与する多くの作用を持つ.しかし,IL-13受容体の分布はIL-4受容体と異なり,ヒトT 細胞表面にIL-13受容体は存在せず,気道上皮細胞や気管支平滑筋細胞に発現している(Cytokine 21,75-84,2001; Eur J Immunol 28,4286-4298,1998).

IL-13は喘息のエフェクター分子としても作用し,無感作動物にIL-13を投与するだけで,気道過敏性,好酸球性炎症,粘膜異形成といった,アレルギー性喘息に特徴的な症状を発現する.また,IL-13は,β2刺激薬による気管支平滑筋細胞のcAMP 上昇を抑制し,喘息における気管支平滑筋収縮にも関与する(Am J Respir Crit Care Med164, 141-148, 2001).更に,喘息患者の気管支生検標本や肺胞洗浄液中の細胞で,IL-13のmRNA やタンパク質が増加している.

抗原チャレンジ後の喘息患者の肺胞マクロファージでは,IL-13 mRNA が増加する.IL-13の過剰産生もしくはIL-13の作用の増強には,IL-13遺伝子のプロモータ領域や,IL-13コーディング領域もしくはIL-4R_鎖の遺伝子多型が関与する可能性も指摘されている.これらを踏まえ,IL-13の作用を抑制する治療法が検討されている.IL-13R_2と呼ばれるIL-13結合タンパク質はIL-13と結合しても情報伝達は行わず,IL-4とは結合しない.通常のIL-13受容体を発現した細胞にIL-13R_2も発現させると,IL-13受容体を介した細胞の活性化が抑制されることから,IL-13の関与する疾患にIL-13R_2を用いた遺伝子治療の可能性まで検討されている(Blood 97,2673-2679, 2001).

また,IL-13の中和抗体を投与したマウスでは,IL-12やINF-γの上昇を伴う事なく抗原誘発気道過敏性が抑制される(J Immunol 166,5219-5224,2001).更に,IL-4の変異タンパク質(C118 deletion)はIL-4とIL-13の受容体に共通のIL-4R_サブユニットに結合するが,情報伝達を惹起しないため,IL-4とIL-13の両方の拮抗薬として作用する(J Immunol 166,5792-5800,2001).

この変異タンパク質を感作マウスに投与して抗原吸入を行うと,気道過敏性や気道への好酸球浸潤が抑制された.同時に,肺胞洗浄液中のIL-4,IL-5,IL-13などのTH2サイトカインや血中IgE も低下していた.以上のような研究を踏まえて,IL-13を標的とした治療方法が研究されている.しかし,一つの病態が一つのサイトカインで解決できる はずもないことは,IL-12の事例からも明らかである.むしろ,種々なサイトカインやその受容体の遺伝子多型の存在を明らかにして,患者の病態にあわせたサイトカイン療法が指向されるべきであろう

岡山大・院・自然科学研・医療薬学専攻、見尾光庸、
e-mail: mio@cc.okayama-u.ac.jp
キーワード:インターロイキン12,インターロイキン13,
喘息

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