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本原稿は、日本薬理学雑誌に掲載された記事を転載したものです。

Sickness behavior 治療薬としてのNSAID
-肝障害モデルを用いての知見より-

 疾病における体重の減少は多くの場合,生体の衰弱を表している.癌末期のcachexia においても体重の減少を伴う衰弱が著しい(Drugs 55, 675-688, 1998).この様な癌末期のcachexia の患者において食欲増進剤であるmegesterol acetate の単独投与では体重の減少を阻止することはできないがNSAID であるibuprofen を併用することにより体重の減少が改善されたことが報告された(Brit J Cancer 76, 788-790, 1997).

 一般に感染症や炎症時に食欲の低下,体重の減少,疲労感,うつ,気分の落ち込み,などの生理的および精神的な変化が誘発されることが知られているが,これらの症状は正しくはsickness behavior と呼ばれる.このsickness behavior に対する治療法はなく多くの場合見過ごされてきたが,これらの症状は非特異的な症状ではなく,免疫反応の結果誘発される一連の反応であり,サイトカインの視床下部を含む中枢作用により誘発されることが分かってきた(Trends Pharmacol Sci 13,24-28, 1992).

 さらに癌末期のcachexia における体重の減少も脳内サイトカインの発現によるsickness behavior が誘発されることによる(Semin Oncol 25 Suppl 6, 45-52,1998).我々はNSAID の体重の減少を伴う衰弱の治療への可能性について研究を行ってきた.マウスへのConcanavalin A(Con A)の投与は肝障害を誘発することが知られており,我々もサイトカイン依存性肝障害モデルとして用いてきた(Eur J Pharmacol 394, 157-161, 2000; 396, 125-130,2000).

 しかし,このモデルでは運動量の低下,摂餌量や体重の減少といったsickness behavior 様症状が誘発され,脳内にサイトカインmRNA 発現が誘発されていることを見いだした(Int J Mol Med 7, 169-172, 2001).一方,ラットへの低用量の四塩化炭素の投与においても,肝障害とは非依存的にsickness behavior 様症状が発現することを報告した(Int J Mol Med 6,181-183,2000).ZaltoprofenはCox-2に選択性が高く,消化管に対する副作用の少ないNSAID である(炎症20,247-255,2000; 炎症・再生21,235-241, 2001).Zaltoprofen はCon A 投与により誘発されるマウスの体重の減少を改善し(Int J Mol Med 8,315-317, 2001),さらに四塩化炭素により誘発されたラットの体重の減少も改善した(Int J Mol Med 7, 101-104, 2001).

 サイトカインはprostaglandins(PG)の産生を促進し,さらにsickness behavior の誘発にはPG が関与する(Physiol Behav 53, 127-131, 1993; Brain Res 21, 71-81,1997)ことも報告されており,zaltoprofen の効果がPGの生成阻害を介している可能性が考えられる.Aspirin の長期投与が大腸癌の発症率を低下させることは良く知られており,さらに食道癌,胃癌,直腸癌などを含めた各種癌患者においてaspirin やindomethacin の投与が延命効果を示すことが報告されている(Oncogene 18, 7908-7916,1999; Cancer Res 54, 5602-5606, 1994).

 癌患者においてNSAID が延命効果を示す機構については明らかではないが,実験モデルにより示されたzaltoprofen による体重の減少の抑制効果などが癌患者の衰弱の抑制に関連し,結果として延命効果につながっている可能性も考えられる.さらにinterferon(IFN)療法においてはIFN が中枢のサイトカイン発現を誘発しsickness behavior を誘発する結果,うつ,倦怠感などの副作用が起こるが,NSAID がIFN療法におけるsickness behavior の治療に有効である可能性が考えられる.

 NSAID は鎮痛,抗炎症作用を目的として使用される優れた薬物であるが,zaltoprofen などのNSAID が癌cachexia をはじめとして体重減少を伴う衰弱の治療や,さらに広く感染症,炎症時における倦怠感,疲労感やIFN療法時に誘発される副作用の治療にも有効性が期待される

日本ケミファ(株) 研究所岡本俊博
キーワード:非ステロイド性抗炎症薬,シックネスビヘイビア,
体重減少

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