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江橋節郎賞

真崎 知生 東京女子医科大学 国際統合医科学インスティテュート

この度第一回江橋節郎賞の受賞の栄誉に浴しました.私にとってはこの上ない名誉であります.日本薬理学会理事長をはじめ会員の皆様方,関係者の方々に篤く御礼申し上げます.

私が現役を退いてからもう10年にもなります.したがって今回の受賞は現役で活発に活躍をしている研究者への賞というより,昔の話題を思い出していただいた受賞という気恥ずかしさがあります.しかし,活気に満ちた当時の研究室の日々を思い出すと感無量です.私は東京都臨床研,筑波大学,京都大学と移り,それぞれ研究室を持つことができましたが,それぞれの研究室,特に16年間も過ごさせていただいた筑波大学は極めて優れた研究者の集団でありました.いずれもその中心に私がいられたのは幸いでした.先日,今回の受賞を祝い,主として三つの昔の私の研究室の人々が集まりました.皆こぞってこの受賞を喜んでくれました.このことは私にとって大変嬉しいことでした.

昨今の薬理学の展開は基礎的には現代生命科学とくにその方法論による進歩,もうひとつはクラシックな実験薬理学から創薬科学への視点の移動です.今回の受賞ではこのふたつの点,とくに前者の観点でわれわれのグループの薬理学への貢献が認められたものと思っております.

私は江橋先生の直弟子であります.江橋先生の研究室で筋蛋白質の研究からスタートし,以後いくつかの仕事を進める中で覚えた分子生物学や細胞生物学的手法を,薬理学の進歩に役立てたいと思っておりました.その後,平滑筋の研究から血管研究へと進み,血管内皮細胞が分泌する強力な血管収縮ペプチド,エンドセリンの発見に至りました.このペプチドは当時知られていたどの血管収縮物質よりも強力でありました.この発見は世界中の研究者の注目を集め,世界各地で爆発的にエンドセリン研究が始まりました.私たちの研究室では,引き続き3種のエンドセリン分子種の存在,これらの分子種に対応するエンドセリン受容体の発見などを行い,エンドセリン研究をリードしてきました.一方,いくつかの製薬企業はエンドセリン受容体拮抗薬の開発を進めました.その後このエンドセリンは血管ばかりでなく,全身の臓器にそれぞれのレベルで発現しており様々な生理活性を示していること分かってきました.特に肺高血圧症などでは病態生理に重要な働きをしていると考えられており,開発されたエンドセリン受容体拮抗薬の中には実際に臨床で治療薬として用いられているものがあります.この爆発的に起こったエンドセリン研究は同じ頃に起こった内皮由来の一酸化窒素の研究と共に内皮の研究という新しい学問領域を形成することになりました.

さらに我々は内皮研究を進める中から内皮由来酸化LDL受容体をクローニングすることができました.マクロファージに発現する酸化LDL受容体は動脈硬化症におけるマクロファージの泡沫化にとって重要であることが分かっています.一方内皮細胞に発現する酸化LDL受容体には不明の点が多かったのですが,従来発表されていたマクロファージの受容体とは異なるものであることがわかりLOX-1と名づけました.この受容体は粥状動脈硬化腫を含む,多くの炎症性疾患の病態形成に重要な役割を演じていると考えられています.

これらエンドセリンやLOX-1はその後多くの研究者によって研究され,いろいろな事実がわかってきました.いずれも臨床の疾患の診断と治療に応用するという視点からも研究されています.その後の研究の発展が期待されます.

(Tomoh Masaki)

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