江橋節郎賞
第2回江橋節郎賞受賞講演
山中 伸弥 教授
(京都大学・物質-細胞統合システム拠点 再生医科学研究所 センター長)
社団法人日本薬理学会江橋節郎賞は,本会名誉会員故江橋節郎先生の生命科学への貢献を末永く顕彰するため平成19年に創設され,独創的,飛躍的な業績をあげ,薬理学の進歩に大きく貢献した会員に授与されます.平成20年12月に日本薬理学会ホームページ等で発表されましたとおり,第2回江橋節郎賞受賞者は,京都大学・物質- 細胞統合システム拠点 再生医科学研究所センター長の山中 伸弥教授に決定されました.
山中教授による受賞講演「体細胞の初期化による多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立」と授与式が第82回年会(平成21年3月17日・パシフィコ横浜メインホール)において行われました(写真下).山中教授の受賞講演の直前に,同会場で2007年度ノーベル生理学・医学賞受賞者の米国ノースカロライナ大チャペルヒル校スミシーズオリバー教授による招待講演「Two Mouse Tales」が行われ,この時点で既にかなりの盛況でしたが,さらに山中教授の講演開始までには1000人収容の大会場が満席になり,かなりの立ち見が出るほどの会員が詰めかけ,非常な熱気に包まれました.オリバー教授がご自身の講演の中で山中教授の講演を楽しみにしていると述べられたため,山中教授は急遽,英語での講演に切り替えられました. 基礎研究活動を始めた大阪市立大学医学部薬理学教室での最初の研究成果の紹介に始まり,ご自身の研究者としての出発点が薬理学にあったこと,米国留学先でのご苦労と研究展開,帰国後に日本で自由に基礎研究を遂行することの困難とその打開,そして世界に大きな衝撃を与えたiPS細胞樹立という成功を得られるまでの多くの挑戦,さらには今後の臨床応用水準のiPS細胞創出への展望について,ユーモアを交えながら情熱を込めて話されました.単に業績の紹介だけではなく,実験から意外な発見を得る科学者としての喜び,指導者の指示を鵜呑みにすることなく自身で思考し実践することの重要性,そして新たな研究分野へ挑戦する気概の大切さ,を熱く語りかける素晴らしいご講演で,優秀な若手研究者が育って欲しいとの山中教授の熱意が強く伝わりました.
今やiPS細胞樹立の科学的および社会的インパクトは計り知れないものがありますが,病態モデルの作成,特に新薬開発にとって極めて重要な個々の疾患のヒト細胞を対象とする薬理学研究に画期的な展開が期待できること,そしてiPS細胞研究に対するAllJapan体制のなかで薬理学研究者が果たさなければならない重要な使命について再認識させられるご講演でした.現在,世界で最も有名かつ,最も多忙な日本人と言われる山中教授の益々のご健勝とさらなるご発展をお祈りするとともに,薬理学を志す若手研究者の奮起を期待するものです.
(文責 広報委員会)