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学会員の著書紹介

くすりの効き方を科学する -統一性と多様性-

渡邉 建彦、上崎 善規 著


医歯薬出版株式会社
ISBN 4-263-20152-3
本体 4,000円
刊行年 2001年10月


薬理学は、近年の酵素学、生化学、分子化学、分子遺伝学などの進歩によって複雑になり、単純に暗記しても“薬を理解する”ことに結びつかなくなってきている。複雑化した薬理学を理解しやすく、かつ連想ゲームのように、新しいタイプの薬物が理解できるテキスト。

主要目次

I..はじめに
II..薬物の作用の統一性:薬物のターゲット(作用点)は分子である
III..たんぱく質に作用する薬物:ほとんどの薬物は,たんぱく質をターゲットとしている
IV..薬物の作用点の多様性:薬物は種々の点に働きかけ同一作用を起こす
V..副作用:副作用は薬物につきものである
VI..おわりに
VI.I.参考書・コラム

書評

"独断と偏見"こそ,科学することの推進力であるはずなのだが,それをやってのけることは諸般の事情 で意外とむつかしい.

私も薬理学の教科書を分担し,版を重ねているが,それをやろうとするものの,バイブル(和訳:グットマン・ギルマン薬理書,廣川書店)が教える通りになってしまう.本書はタイトルからもわかる様に,教科書というかたちをとっていないのがミソであり,だからこそ著者らのそれが貫かれたのであろう.あとがきに記している様に,一貫してi)薬物は生体分子に作用する,ii)薬物は生理反応に効く,という主張がなされている.目次を紐解こう.

くすりとは?で著者らの長年の考えが披露されている.これに続き,薬物のターゲット(作用点)は分子であるとのタイトルのもと,総論が展開される.各論においては"ほとんどの薬物が,分子でも,蛋白質をターゲットにしている"とのアイデアのもと,薬物の作用機序を整理している.スキーム(図),テーブル(表)を多用して解説文は最少にとどめている.この様に薬理作用にできるだけ統一的な解釈を試みているが,これに組みさない薬物は多様性という面から集録している.では,どの様にこの単行本(あえて教科書と呼ばない)を使わせてもらったらいいのだろうか? 私は豊富な囲い込み記事に注目して,講義の際の余話のネタにさせてもらおうと思う.昨今,チュトリアルやコアカリキュラムなどで薬理学の講義枠は減少の一途である.主体的に学習することを覚えさせ,全部を網羅して講義をする必要はないとの考えもある.学生に本書を与え,考えさせるのも一案であろう.意外と受けるかもしれない.

先日,渡邉先生にお会いした時,そろそろ定年退官だとお聞きした.本書を"薬理学者の遺言"に止めず,お弟子さんたちの手により2版,3版と改訂されてゆくことが望まれる.

(群馬大・医・薬理小濱一弘)

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