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学会員の著書紹介

元気で長生き-やまいの予防とくすり-

戸田 昇 編

メディカルレビュー社
ISBN 4-89600-406-X
本体 4,000円
刊行年 2001年9月

斯界のリーダーが解説する、やさしい健康・教養講座。実証に基づいて、生活習慣病を予防や治療により克服して「元気で長生き」できる方法が具体的に述べられている。

主要目次

生活習慣病の予防─ライフスタイルの改善
心臓は長生き?
糖尿病と一生つきあうには
くすり─生かすもころすも貴方しだい
創薬─夢のくすり、今のくすり
Silent KiIler 高血圧
痴呆は予防できるか、治せるか?
血管より老いる
不老長寿のくすり  /他

書評

 昨今,市民講座が流行である.大学が主催する場合もあるし,学会にも付き物にもなってもいる.対象は一般の善良なる市民であるが,我々も拝聴することがあるし,また,自身が演者になる機会も必然的に多くなってきている.何れの場合にも,私,自身は,学生への講義とは別の次元で大変難しいと感じる次第である.テーマ選びも難しい.内容も学生向けのように全てを理解する必要があるというわけではない.常に患者と対話している臨床家はそれほどでないのかもしれないが,基礎の人間にとっては,どこまで話せばよいのか.何を知りたがっているのか.はたまた,どういえばわかってもらえるのか悩むところである.優しい語調で話されているのだが,肝心のところに難解な専門用語が飛び出すのである.「ハイ,これは酵素で,これは細胞内情報伝達物質の一つで」と,話が進行する.また,ついつい自分の研究データが,有意差検定のマークと共にグラフとなって出てくる.これがコントロールでこれがヴィークルでと.挙げ句の果てに,降圧薬ではなくて,抗高血圧薬で,こんなすばらしい機序で効くのですよと得意になって,「ご質問は?」とやると,「先生,私の血圧計と息子の血圧計とでは数字が違うのです.どこのメーカーがよろしか?」とくる.

 薬理学会の諸兄子も,このような市民講座に駆り出される機会が増えていることと拝察する.そこで,一応,薬理学者として紹介された以上,内科の先生の書いた本の受け売りでは具合が悪い.薬理学的な話題で,いかに聴衆に満足してもらえるかという悩みに直面する.そんな折りには,本書をご参考にされてはいかがかと思う次第である.本書は,戸田昇先生が,ご退職後の天職として,これまでの医学部での経験を世に還元したいとして始めておられる活動の一つとしてまとめられたものである.先生の広い交友関係を生かして臨床家をも含めた専門家にも執筆を依頼されているが,全編を通して,「くすり」を解りやすく理解させようと言う基調が見て取れるのが,我々,薬理学会員には好都合であろう.内容は,「元気で長生き」というタイトルどおりで,長寿が核となっており,その関連のテーマが27章とくすりに関する「Q&A」の章が付け加えられている.戸田先生ご自身が執筆されてるところが1/3で,その他は,臨床家を含めた専門領域の先生がたが分担されているという按配である.みなさん,戸田先生の意気に感じて,本の単価を抑えるのにご協力されたのだと仄聞している.特徴は,やはり「くすり」に関する項目が多いことである.「薬理学」からはじまり,「くすりのさじ加減」「夢のくすり」などの項目が目につく.最後の質問箱には,講演の際に聞かれそうな項目が挙がっている.図表も多く,利用させてもらっても良さそうなものが散見される.「糖尿病患者数と乗用車の登録数の年次推移」とか,「チンパンジーの血圧」とか,講義のときにも学生の気をひくのには役立ちそうである.対象読者は,かなり知的水準と知的欲望の高い人たちと思われる.どちらかといえば,軟派ではなくて硬派寄りであろう.もっとも,会員諸兄が知る戸田先生の本としてはかなり軟派ではあるが.多分,先生は,高等学校時代の医学領域でない友人達が念頭にあって,「おまえも,ぼつぼつ,体のことを真剣に考えてみては?」というところではなかろうかと勝手な想像を巡らす.市民講座の参考に,また,薬理学会の会員の周辺の知的意欲の高い友人にもお勧めいただいてもいい「健康」のための一冊ではないかと感じた.

付録(?)の「禁煙宣言」なるハガキがユニークである.逃げられたかみさんにでも出せばよろしかろうか.

(大阪医大・薬理宮﨑 瑞夫)

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