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学会員の著書紹介

走査電顕アトラス マウスの発生

近藤俊三 [写真]、牛木辰男、川上速人、近藤俊三、高田邦昭、花岡和則 [著]岩波書店

ISBN4-00-006022-8 C3045
定価 15,000円
刊行年2003年2月

ヒトを含めた哺乳動物における受精から個体までの正常発生のレファレンスとして、座右の書になるだろう。

主要目次

第1部 総論(配偶子形成と受精;卵割と胚盤胞形成;原腸胚形成;胚の反転 ほか)
第2部 各論(顔面;消化器系;呼吸器系;心臓血管系 ほか)
第3部 試料作製法(走査電顕の試料作製法;透過電顕の試料作製法)

書評

画期的な待望の写真集がようやく出版された。

  本書は受精、卵割、胎仔とマウスの個体発生の全過程を丹念に追ったもので、血管鋳型法と走査電顕を駆使して胎性期の発生過程を3次元的に示した美しい写真の数々に驚かされる。この写真集は三菱化学生命科学研究所電子顕微鏡室での25年におよぶ近藤俊三博士の粘り強い研究と技術改良の成果である。近藤博士を導かれた加藤淑裕、団勝磨両先生はすでに故人となられたが、ご存命であればこの出版を最も喜ばれたことであろう。共著者も近藤博士の写真を目の当たりにして、近藤ファンになられた方々である。

 本書は、受精から器官原器・胎盤の形成過程、主に誕生までの胎性期の各器官形成、そしてこの研究に用いられた実験法解説の3部構成になっている。どの部分をとっても発生過程の変化、退縮など詳細で一目瞭然である。最初に掲げられている、精子が卵子透明帯を通過する写真は新聞や教科書に掲載され、見たことがある人は多いと思う。近藤博士の写真の豊富さを知る者としては、総数500枚ほどの写真では多少物足りないが、頁数を増やさぬよう、写真とその説明は最小になっている。また、各所に模式図が適切に配置され、理解を助けている。

 現在のところ、体長1 - 2 cmのマウス胎児仔の血管鋳型作成、さらに2 - 3 mmの胎仔血管に色素を注入する技術をもつのは、世界で近藤博士しかいない。しかし近年、遺伝子操作はマウスを用いた例が多く、その操作いかんによっては胎生死する例も多くあり、胎仔発生の経時変化を観察できるこの技術はますます必要となっているだけに、この写真集が技術継承のきっかけとなることを期待したい。すでに実験法の試料作成法は内外から多くの問い合わせがあると聞く。その意味で、本書に近藤博士の発表した邦文、欧文の文献が記載されていない点は残念である。

 下手な書評は必要なく、写真を眺めていれば、マウスがわずか19日で個体になり生まれることの不思議さなど、様々な思いが湧き上がってくる。本書は、価格も比較的手ごろであるので、学生から第一線の研究者、特に哺乳動物の遺伝子改変を扱う研究者には、ヒトを含めた哺乳動物における受精から個体までの正常発生のレファレンスとして、座右の書になるだろう。

(石田行知・シンシナチ大学客員教授、唐木英明・東京大学名誉教授)

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