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第78回日本薬理学会年会長に聞く

 学術年会は日本薬理学会の重要な事業の一つです.
 2005年3月22 日から24 日までパシフィコ横浜で開催された第78回学術年会長の遠藤政夫教授に,今後の薬理学会の方向性および学術年会のあり方等を含めて,年会準備・開催を通じて感じられたこと,苦心されたことなどを,まだ記憶の鮮明なこの時期に, 理事であり広報委員会委員である岩尾と田中が指名を受けてインタビューしました.

第78回年会長
遠藤政夫(山形大・医)

インタビュアー
岩尾 洋(大阪市立大・医)、田中利男(三重大・医)



1. 年会開催地について

岩尾 日本薬理学会は4 部会からなっていまして,会員数の分布に従って,だいたい関東・近畿部会それぞれ2回に対して北部会・西南部会1回という割合で年会主催部会を決めてきています.従来,学術年会は地理的に年会長の所属する部会で開催されてきたわけです.
 先生は北部会に属する会員ですが,パシフィコ横浜で主催されました.どのような理由でそうされたのでしょうか?また横浜開催で困った点とか有りませんでしたでしょうか?

遠藤 年会は原則的には先生が言われたサイクルに従って主催されて来ていますが,薬理学会は医学会総会の分科会ですので,そちらとの兼ね合いとか,その時点で最適任者と思われる方が居られる部会が2年前の6月の理事会で立候補してその年の12月の理事会で年会長候補者を選出するということになっています.私も当然のこととして,山形開催を考えました.開催可能なコンベンションホールは山形にもありますが,設備が劣っていることや,3000人近い参加者を受け入れるには宿泊施設が限られています.参加者の便利さと参加の快適さということから比較的早い段階にパシフィコ横浜での開催を決めました.
 パシフィコ横浜での学術年会の開催は4回目になりますが今までの参加で,交通の便利さとか近くの中華街とか,非常に楽しく参加できたのも横浜に決めた理由のひとつです.また,北部会など小さい部会で小都市に住んでいる人が年会長をやる場合には場所的にとらわれないで最適と思われるところで開催することはそのメリットが大きいと思います.
 それから同じ会場で開催すると学会の準備・運営などのノウハウが確立されて来ますので,年会長は学術プログラムの編成に,より集中できるというメリットがあります.また同じ会場で連続開催すると会場費割引が受けられる可能性があるとか付随的なメリットもあります.ちなみにドイツ薬理学会の春の学術年会は毎年マインツの同じ会場で開催されています.日本薬理学会年会も会場の準備・運営に不可欠ではあるが毎年やるべきことが決まっている事柄は学会事務局で通常の業務として行い,年会長は学術レベルの高い学会を主催することに集中できるようになれば少し理想に近づいたと考えて良いのではないかと思います.
 現在は通信網が発達しているので通信・連絡という点ではとくに困ったことはありませんでした.学会の運営は東京のコンベンション・サービスにお願いして,1カ月に1回程度の打ち合わせに山形まで来ていただきましたが,当然,その交通費は山形ということで余分にかかっています.
 ただ,ランチョンセミナーをお願いする際に,山形は東北地区,横浜は関東地区なので,製薬会社の管轄が違うこと,また薬理学会の直前に日本循環器学会が割り込んできて同じパシフィコ横浜で学術年会を開催したということがあり,最終的には10セミナーを組めましたが,そのプログラム編成には予想外に苦労しました.

2. 年会参加者数

田中 参加者数はいかがでしたか?年次経過を含めていま薬理学会はどの様な状態にあるのでしょう?
 また演題数はいかがでしょう?

遠藤 日本薬理学会は会員数 6,000名からなる国際的にももっとも大きな薬理学会ですが,理事会では危機感を持って繰り返し今後の重要な問題として取り上げられているように,会員数は漸減状態です(図1).一番多かったのは平成9年度で6,620名でしたが,平成16年度には5,995名ではじめて6,000名を切りました.


図1 会員数,年会参加者数,年会演題数の推移
*はそれぞれの最高数を示す

 会員規定で2年間は会費納入がなくても会員とみなされますので,実質的会員数は会費納入会員で数えることになります.それは,もっとも多かったときでも6,000名を超えたことはなく,実質会員数が最多であった平成7年度でも5,973名でした.
 年会入金参加者がもっとも多かったのは平成4年度(横浜・加藤年会長)で3,157名で,公示参加者数がもっとも多かったのは平成5年度(京都・栗山年会長) で3188名でしたが,今年度は,それぞれ2376名と2519名でした.平成4年度の入金参加者数は公示参加者数と同数を示しています.平成4年度には会費非納入招待者が0 だったということは考えられませんので,実際の参加者数はもうちょっと多かったかも知れません.入金参加者数は平成15年度(大阪・三木年会長)が2,429名と少し多いのですが,平成13年度(熊本・宮田年会長)の2,271名から横ばい状態でそれほど変化していないと考えてよいと思います.
 一般演題数は,平成5年度(京都・栗山年会長, 1,220題)と平成6年度(名古屋・日高年会長, 1,247題, 最多)と 1,200題を超えたことがありましたが,その他の年度はすべて1,100題台ということで,平成16年度も1,105題とかろうじてその仲間に入れたというところです.

3. プログラム編成

岩尾 プログラムの編成に関して工夫されたことや苦労されたことがありましたらお訊きしたいと思います.

遠藤 平成6年度年会(名古屋・日高年会長)からシンポジウムを口演で行い,一般演題はポスター発表で行うというやり方が主流となって来ましたが,平成15年度の三木年会長(大阪)が一般演題の口演を重視するという方針変更をされました.私は,それを踏襲しさらに発展させるという基本方針を立てました.
 ポスター発表には多くの研究者と議論できるという長所がありますが,年会で口頭発表するという緊張感は若手研究者の育成に効果があるという観点から一般演題の3分の2を口頭発表で行いたいと各部会の評議員会における年会説明の際に口演での一般演題の応募をお願いしました.口頭発表は各教室からの応募を1題とするという制限もなくし,昨年度と同様に優秀発表賞のエントリーも口頭発表のみで行うことにしました(ただし優秀発表賞のエントリーは各教室から1題にしました).その甲斐あって,口頭発表数は昨年度より100題以上多い291題の応募をいただきましたが,それでも一般演題の3分の1 以下ということになりました.
 しかし結果的には学会運営という観点からは今回の口頭発表数で良かったと思いました.口頭発表はパワーポイントで行われますが,現在ウインドウズとマッキントシュの2系統準備する必要があり,口頭発表は学会の心臓部で失敗が許されないため,ランを組むことから,プロジェクターの借用,プロの技術者による操作の依頼などひじょうに経費が嵩むことになり,現在の学会収入では口頭発表300題というのが精一杯であるということが決算の段階で判りました.怪我の功名と言っても過言ではなかったと思っています.口頭発表の重視は,日本の若手の研究者に公の場で質疑応答を行うという技術と習慣を身につけて欲しいということが大きな理由でした.もっとも現代の若手研究者は私たちの世代に比べると物怖じしないし,議論の仕方も数段上達していると思います.しかし外国の研究者と比べるとまだまだトレーニングの余地は十分にあると思います.
 一般口演にどの程度オーディエンスが集まってくれるかが心配でしたので,会期中に各会場を廻ってみました.学会最後の日にも多くの参加者が一般口演を聞いて下さいましたので,胸をなで下ろすとともに基本方針が誤っていなかったとの意を強くしました(自画自賛とお叱りを受けるかも知れませんが,これは会員の参加者の方々への感謝の意もありますのでどうかお許し下さい).
 従来,シンポジウムは公募されましたが,今年はシンポジウムをプログラム委員会指定にさせていただきました.その理由のひとつは平成15年度(第77回) のシンポジウムの数が50 と非常に多く,公募の多いことは嬉しい悲鳴でしょうが,50あると一般口演重視の方針に支障が来そうだということがありました.
 今年度のシンポジウムは29と,目標の30 以下に納まりました.研究分野を広くカバーする点に細心の注意を払いました.まだ修正可能な段階で年会学術企画委員会(松木委員長)に分野のチェックをしていただき,研究分野に関してはバランスのとれた適切な選択であるという評価をいただきました.しかしシンポジウム数の制限から分野のカバーが十分とは言えない点も有ったのではないかと心を痛めております.取り上げられなかった分野の研究者の方には第79 回の同じく横浜における年会(三品年会長)さらには第80回の年会(鍋島年会長)のときに是非とも応募していただきたいと思います.
 今年度は,研究推進委員会指定シンポジウムとしてトランスレーショナルリサーチが取り上げられましたが,薬業界でも重要課題として興味をもって取り組んでいるテーマであるということで,両者の協力でシンポジウムのプログラムを作り上げていただきました.
 また,今年度は,指定シンポジウムにさせていただきましたので,その利点を生かして,外国からの招待講演者を入れて,治療における細胞・組織の利用というテーマで英語によるシンポジウムを組んでいただきました.その際にそれとコンバインして臨床薬理学会のご協力を頂き,ヒト組織利用の治療における現状と将来展望に関するシンポジウムを組んでいただきました.
 第1日目の午後一杯,組織エンジニアリングの現状・問題点と将来的展望について最新の情報を得ていただけたのではないかと思っています.また,世界に誇れる日本の創薬,漢方医学など応用科学としての薬理学に焦点を当てたシンポジウムの企画もお願いしました.
 日本の創薬の従来の成果とこれからの方向性と可能性を考えるきっかけとしていただければと考えました.
 また,今年は,若手研究者の研究課題重視の観点から一般演題の応募の一番多かった循環器と中枢分野にテーマを絞ってミニシンポジウム2題を組むという新しい試みを実施しました.大変好評でしたので次回の年会でも実施されることになっています.
 優秀発表賞にエントリーされている若手研究者がミニシンポジウムのスピーカーに選ばれた場合どのように対処するかという問題はそれ程簡単ではありませんでした.最初は年会長がミニシンポジウムに選ばれたことを顕彰すれば一番簡単かと考えましたが,これは年会長が出す賞になるので理事会の承認を得なければ不可能であるということがあり時間的に無理でした.
 結局,4人の方にはミニシンポジウム(15分)と一般口演(9分)と2回話していただくことをお願いいたしました.優秀発表賞は薬理学会にとって将来的にも重要な賞であり,評価の公平性に細心の注意を払っています.5名の評価者(委員長1名)の総点で1 グループ10名の発表者から1名の最高点発表者が選ばれます.発表者の関連者を除くため,評価者選任は結構大変な仕事です.今年は各専門分野の名誉会員の方にも委員長をお願いしました.

4. 外国人研究者の招待

田中 国外の研究者を数名招待されてましたが,どのような意図をもって招待者を決められたのでしょうか? また期待したような効果が得られたとお考えですか?

遠藤 もうちょっと沢山の研究者を招待したいと思いましたが,資金的な問題と,どうしても私の専門の循環器分野の研究者が多いので,偏らないように苦労しました.特別講演にはNIA-NIHのディレクターのEd Lakatta先生をお願いしましたが,彼とはGordon Research Conferenceなどでもう30年近い友人ですのでお互いに若い頃からの知り合いで,Gelontologyの研究を続けてきていますのでCardiovascular agingの講演をお願いしました.心筋細胞のE-C couplingでは非常にユニークな研究をしている人です.もうひとりのOtto - Erich Brodde先生はこつこつと受容体の研究を続けている人で,やはり30年来,弘前大学の元村教授もそうですが,共同研究者だった人で,ヒト心臓のβ受容体に関してPharmacological Reviewsに2 編の総説を書いており,日本薬理学会の名誉会員でもあります.Don Bers先生は心筋細胞Ca2+ signalとE-C couplingの研究では国際的にも第一人者で比較的最近のNatureのReview articleでも御存知の方が多いと思いますが,彼もGordon Res. Conf.やAHAで長らくの友人である研究者です.Steven Houser先生は昨年のCardiac Regulatory MechanismのGordon Res. Conf.のchairmanでやはり国際会議等で永らく交際がある人です.このように並べてみるとどうしても私の専門分野の研究者が多くなっていることに気づき忸怩たる思いがありますが,お許し願いたいと思います.
 ひとつ工夫した点は,外国からの招待講演者の発表とシンポジウムをコンバインして,英語でディスカッションに加わっていただき通常より長い時間に渡って1つの分野をカバーすることでした.その他にも別個に外国人研究者を交えた英語によるシンポジウムを企画して下さったオーガナイザーもあり,日本薬理学会の国際化に寄与していただき感謝しています.
 しかし英語による講演というとまだ拒絶反応があり主催者が期待したほどのオーディエンス確保が出来なかったセッションも多かったという印象でしたが,このような努力を地道に蓄積してゆくことが大切だと考えています.
 また,今後,アジアのリーダーとしての日本薬理学会の将来的発展をにらんで,アジアの数カ国からリーディングな研究者を招待しました.近いので旅費もあまりかかりませんし,アジアにおける近隣諸国との交流はこれからますます重要性を増してくるものと思われますので,積極的に進めてゆく基盤が出来ればと考えました.具体的には,2006年のIUPHARを北京で開催する会長の北京大学のZu Bin Lin教授,台湾薬理学会会長のSamuel Chan教授,Australasian(オーストラリア-ニュージーランド薬理学会: ASCEPT)前会長のJohn Meiners教授,韓国から若手研究者のGou Young Koh教授を招待致しました.また,ハンブルグ大学若手薬理学研究者のThomas Eschenhagen教授を招待しました.彼は私がドイツを訪問したとき大学院生でしたがその後Erlangen大学の教授として出て,また教授として出身大学であるハンブルグに戻ってきたドイツ薬理学会の将来を担う人材のひとりだと思います.彼は「日本薬理学会の若手研究者が元気なのに強い印象を受けた」「多くのセッションが英語で行われており,ドイツ薬理学会も見習わなければならない」と興奮気味に話していました.日本から招待されてドイツに行く研究者は年輩のヒトが多いので,こんなに沢山の若手の日本人研究者を見たのはおそらく初めてだったのではないかと思います.

5. 年会の財政

岩尾 年会開催の財政的な裏付けはどのようになっているのでしょうか?

遠藤 これは学会開催のもっとも重要な問題のひとつです.
 6月18 日に公認会計士による監査が無事に終了しホッとしていますが,ゴールにたどり着くまでには苦労もあったような気がします.薬理学会年会のメリットは,歴代の年会長が努力して毎年キチンと運営されていますので,ある程度の予算的な見通しは立てやすいということがあります.図1からも判りますように会費収入が大体予測できますし,製薬業界からの寄付,機器展示による収入,ランチョンセミナーによる収入,民間財団援助への申請による収入,広告収入,学会からの交付金が主なものです.年度始めに予算を立てますが,多くの項目は予算通りに行きました.予想外に出費が多かったのが,前述の口頭発表によるオーディオ機器借用と専門技術者の人件費の部分です.これは前回の三木年会長からのアドバイスもあり緊縮財政に務めましたがやはり予算を大きくオーバーしてしまいました.これは「日本循環器学会の組んだネットをそのまま利用させていただくという節約ができたにもかかわらず」です.ただ幸いにして主催者努力により広告収入がほぼ同額増えましたので事なきを得たという結果となりました.赤字を出さずに学会を終了できたのは僥倖でした.これは,勿論教室員の協力と薬理学会事務局職員のきめ細かいアドバイスがあってはじめて可能であったと年会長として感謝しております.
 全体的に振り返ってみますと,薬理学会の基盤のしっかりしていることが実感されます.すなわち年会開催の8割方はその基盤に乗っていればいいと言っても過言ではありません.収入の予測がつきやすいということです.なんとか工夫して経費を節減すれば赤字は避けられるという程度の収入は確保されています.まったく基盤のない国際シンポジウムを主催したことがあり,その時には不安で眠れない夜もありましたが,年会開催ではそのようなことは一度もありませんでした.

6. 今後の薬理学会と学術年会

田中&岩尾 薬理学会における今後の年会のあり方に関連したことで感じられたことあるいは考えていること等がありましたらお聞かせ下さい.

遠藤 薬理学に関する大きな重要な問題ですので,年会長としてというよりも薬理学研究者としての立場で考えていることですが,薬理学は応用科学のなかでも超応用科学であるので,そのことが今後のゲノム科学, トランスレーショナルリサーチ,臨床薬理学におけるtailor -made medicine (personalized medicine)という非常に広い分野にわたって統合的に関与して行けるすばらしい可能性と将来性をもち得る分野だと思います.
 一方,歴史的に見ても「薬理学は不要なのではないか?」「生理学と生化学で十分ではないか?」とその存在の危機と背中合わせで進歩してきたという面もあります.薬理学消滅の危機は乗り越えられたとは思いますが,方向性を誤るといつ消滅の危機に遭遇しないとも言えません.それだけに知恵の出し甲斐のあるアトラクティブな分野であると思います.年会を通じて如何に活性化とアイデンティティーを確立してゆくかが大きな課題だと思います.すこし抽象的ですみませんが,薬理学の活性化と若手研究者の育成が学術年会の大きな課題だと思います.その課題の達成に向けて年会長はいかに効果的に,知恵を絞って奉仕・貢献できるかという気持ちで取り組みましたが,終わってみると,よくやれたと立案・計画・運営・とりまとめについて自画自賛できる事柄よりもやり残した課題の方が目にとまります.もっともなにをやってもそういうことはあるとは思いますが.最後に,年会にご協力いただいた会員の皆様はじめ,教室員のみなさん,薬理学会の事務局の方々,学会運営に力を貸してくださった方々に年会長として心から御礼申し上げます.

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