公益社団法人日本薬理学会
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学会からの声明

2026年S7 Academies共同声明を受けた本会の声明

脳の健康が支える人々の幸福と持続可能な社会へ
-薬理学が拓く創薬と薬物治療-
2026年7月1日
公益社団法人 日本薬理学会

趣旨

 公益社団法人 日本薬理学会は、Gサイエンス学術会議2026(S7)においてG7各国の科学アカデミー(S7 Academies)が公表した共同声明「Advancing Brain Health (including Mental Health) for Global Societal Resilience」を歓迎する。同声明は、2016年に日本がG7議長国として提起した脳科学に関する国際的課題を継承し、脳の健康(メンタルヘルスを含む)を、個人の幸福、社会的包摂、経済成長、社会的レジリエンスを支える基盤として位置づけ、国際協調のもとに具体的な政策行動へと進めることを促すものである。
 この流れは、脳の健康を医療の領域に閉じることなく、科学、医療、教育、福祉、労働、産業、市民社会を貫く我が国全体の重要課題として捉える視座を示している。日本脳科学関連学会連合は、この国際的潮流を踏まえ、精神疾患と神経疾患を連続体として捉える統合的視点をはじめ、睡眠・概日リズム、血管、免疫、代謝を含む脳と身体の相互作用、AI・データサイエンスを活用した研究基盤、ならびに神経倫理・ELSIの重要性を提起している。
 日本薬理学会は、この認識と軌を一にし、薬理学の立場から脳の健康に貢献することを表明する。薬理学は、生命現象と疾患機序を、薬物標的の発見、薬効・安全性の評価、薬物動態・薬力学、治療最適化、創薬・育薬へと結ぶ学問である。本学会は、国・自治体、市民、産官学の諸機関、ならびに関連学協会と連携し、基礎と臨床、大学と企業、研究と医療・社会をつなぐ学術基盤として、その責務を果たす。

基本認識

 脳の健康は、精神・神経疾患、認知症、神経発達症、依存症、疼痛、睡眠・概日リズム障害、脳血管障害などに関わり、個人の尊厳、学び、就労、社会参加、さらには社会の持続可能性に深く結びつく。これらの課題は、単一の臓器、疾患、制度に閉じるものではなく、脳と身体、個人と社会、予防と治療、急性期と長期支援が連続する領域として理解されるべきである。
 神経伝達、シナプス可塑性、神経炎症、血管、免疫、代謝、内分泌、睡眠・概日リズム、臓器連関などを統合的に捉え、予防、早期介入、再発・進行抑制、治療反応性の改善へ結びつけることは、薬理学が担う中核的役割である。病態機序の解明を薬物標的、バイオマーカー、治療法、適正使用へ展開することにより、薬理学は脳の健康を支える実践知を形成する。
 AI・データサイエンス、ゲノム・オミックス、脳画像、神経生理、患者由来iPS細胞、脳オルガノイド、動物モデル、ヒト生体試料・死後脳、臨床レジストリ、リアルワールドデータは、病態理解と治療開発を新たな段階へ導く。これらを薬理学の視点で統合し、ゲノム情報を含む多層的な生物学的・臨床的データから疾患横断的な機序を読み解き、標的妥当性の検証、患者層別化、精密医療、医薬品の有効性・安全性の向上へと結実させる。
 同時に、脳科学と薬理学の成果は、人の尊厳と権利を尊重して社会に還元されなければならない。精神・神経疾患への偏見や不利益を助長することなく、透明性、説明可能性、公平性、プライバシー保護、当事者・市民参画を重んじ、科学の成果を信頼ある形で社会実装することが不可欠である。

本会の責務と展開

 日本薬理学会は、以下の取組を通じて、脳の健康を支える薬理学の発展に尽力する。

  1. 機序に基づく薬理学研究を深化させる。神経伝達、シナプス機能、神経炎症、血管、免疫、代謝、内分泌、睡眠・概日リズム、臓器連関などを、精神・神経疾患を横断する病態理解と治療標的の探索へ結びつける。
  2. 基礎研究と臨床・創薬を結ぶ橋渡しを強化する。動物モデル、ヒトiPS細胞、脳オルガノイド、臨床バイオマーカー、薬物動態・薬力学、リアルワールドデータ等を活用し、標的妥当性、治療反応、安全性、適正使用を評価する学術基盤を発展させる。
  3. AI・データサイエンスを薬理学の新たな基盤として展開する。ゲノム、オミックス、脳画像、神経生理、行動指標、処方情報、有害事象、患者報告アウトカム等を統合し、創薬標的探索、バイオマーカー開発、精密医療、医薬品の有効性・安全性の向上に資する研究を推進する。
  4. 次世代人材と開かれた学際的ネットワークを育む。学術集会、教育企画、学術誌、若手支援、委員会活動を通じて、研究者、臨床医、薬剤師、企業研究者、データサイエンティスト、規制科学者、倫理の専門家が交わる場を発展させる。
  5. 市民・当事者との対話を重んじる。薬物療法、ゲノム情報、AI予測、薬物反応性の層別化に関する科学的理解を深め、スティグマの軽減、適正使用、説明可能で公正な社会実装に貢献する。
  6. 関連学協会、国・自治体、産官学の諸機関、市民社会と協働する。日本脳科学関連学会連合、日本学術会議、医療・福祉・教育の現場、産業界、大学・研究機関と連携し、国際協調のもとで脳の健康を支える知の循環と社会実装を推進する。
結語

 日本薬理学会は、「機序を理解し、治療へ結ぶ」という薬理学の使命のもと、一世紀にわたり培ってきた学術的蓄積を活かし、脳の健康をめぐる現代社会の重要課題に応えるべく、薬理学をさらに発展させる。科学の卓越性、倫理性、社会への責任を兼ね備えた薬理学を推進し、個人の尊厳と幸福を支え、包摂的でレジリエントな社会の実現に貢献することをここに宣明する。

主要参考資料
  1. S7 Academies. S7 Academies joint statement: Advancing Brain Health (including Mental Health) for Global Societal Resilience. 19 May 2026.
  2. G-Science Academies. Understanding, Protecting, and Developing Global Brain Resources. 19 April 2016.
  3. 日本脳科学関連学会連合. 2026年G-Science共同声明を受けた日本脳科学関連学会連合(脳科連)の声明―2016年G-Science声明を継承し、脳の健康(メンタルヘルスを含む)を我が国の社会的レジリエンスと成長の基盤に位置づける―. 2026年.
  4. 日本学術会議・臨床医学委員会・脳とこころ分科会. 精神・神経疾患の治療法開発のための産学官連携のあり方に関する提言. 2017年7月28日.
  5. 日本脳科学関連学会連合. 精神・神経ゲノム情報管理センター提案書. 2019年9月.
  6. 日本学術会議・神経科学分科会・脳とこころ分科会・移植・再生医療分科会. 見解 脳科学研究とその臨床応用に関わる倫理的課題. 2026年.